〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 専門医の資格を取得後に、海外で更に腕を磨いていたらしい。学生時代、サークル活動でも向上心のある人だと感じていたけれど、今も変わりないようだ。

「小宮山さんも、確かご実家、お父様は内科医だと言ってたよね。お父様の病院を継ぎたいと言っていたのが印象的で。今は、ご実家の医院で小児を?」

 確かサークルに入ったばかりの頃、歓迎会の席での自己紹介でそんなことを言った覚えがある。

「あ、いえ。私は、新宿の総合病院で勤めているんです。実家の医院は、まだ父がひとりで……」

 その実家の医院の存続が危ぶまれているというのは口にはできない。

 白河先輩は「そっか」とだけ言った。

「ところで、今日はこの場所には?」

 白河先輩の視線が私の服装に落ち、また目と目が合う。

「あ……今日は、縁談で来ていまして」

「縁談、見合い?」

「まぁ、そんなところです」

 会話のキャッチボールが続いていたのに、それを途切れさせるような沈黙が落ちる。

 でも居心地が悪くなる前に白河先輩のほうから「そうなんだ」と会話を再開させてくれた。

「それじゃ、こんなところで油売ってないで戻らないといけないな」

 そう言いながら、白河先輩はジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出す。一緒にスマートフォンも取り出し、何かを確認すると名刺の裏にペンでメモを残した。

「こうして偶然に再会できたし、よかったらまた改めて話す機会が持てたら嬉しい。裏に、LINEのIDを書いておいたから」

 差し出された名刺を受け取り、自分の名刺を持ち合わせてないことを断ろうとしたときだった。

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