〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「悠真くん!」
白河先輩の後方、ホテルのエントランスからひとりの女性が現れる。
ピンクの膝丈ワンピースを身に着け、艶のある黒髪は胸の下でワンカールされている。揃った前髪のすぐ下にある目は大きく印象的で、綺麗というより可愛らしい雰囲気の女性だ。
白河先輩を下の名で呼ぶような間柄というのは、特別な関係があるということ。
「今、ロビーで急病人がいたって聞いたけど、もしかしてその方の対応?」
「ああ、搬送を見送った」
女性の視線が一緒にいる私へ向く。目力が強く、見られるとどきりとした。
「そちらは?」
「医学部時代の後輩。たまたま居合わせて、一緒に処置をしたから」
白河先輩から紹介されて、一応ぺこりと頭を下げる。
彼女はもう一度こちらを一瞥し、「そう」と気のない返事をする。その表情はどこか冴えない。どちらかというと歓迎されていないのが感じ取れた。
「では、私はこれで。失礼します」
居心地の悪さも相まって、白河先輩に頭を下げ、女性にも一礼をしてホテル内に戻っていった。