〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
2、婚約者への立候補
八月、第一週の土曜日。
毎日耐え難い猛暑が続き、今日も例外ではない。
夕方になっても気温は下がらず、外に出ればすぐに汗ばむ。太陽が西に落ちかけても、日中に降り注いだ陽の光はアスファルトに蓄えられ蒸し暑さを停滞させる。
先週末、縁談のために訪れていたホテルでたまたま白河先輩と再会し、ひょんなことから食事に行く約束をした。
近いところで都合のつく日を知らせると、白河先輩から【次の土曜日はどうかな?】と返信が送られてきた。
ちょうど一週間後にまた顔を合わせる約束になった。
約束が決まった数日後に来た連絡では、食事をする場所の地図リンクと、【十八時に予約をしています】というメッセージが入っていた。
お店は、六本木駅から程近く。地図アプリを頼りにお店の場所までたどり着くと、その前でつい足を止めて建物を見上げた。
ここ、だよね……? すごい建物なんだけど、間違ってない……?
聳え立つ真っ白な館。正面入り口前には二階の高さまである四本の円柱が立つ。
まさか、こんな格式高い邸宅レストランだとは想像もせず、事前に知らせてもらっていたのだから予習しておけばよかったと後悔する。調べておけば、心構えも違ったはずだ。
少し早めに着くように来たけれど、時間前に入っていいものかと躊躇う。
とりあえず、現地に到着したと一報を入れようとエントランス近くでバッグからスマートフォンを取り出そうとしたとき、
「小宮山さん」
と向こうから白河先輩の声が聞こえた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。ちょうどいいタイミングだったみたいだ」
白河先輩は駅とは逆方向のお店の裏へ続く道から現れた。もしかしたら車でここまで来ているのかもしれない。
「はい。少し早く着いてしまったので、今連絡をしようと」そう言いながら出したスマートフォンをバッグに押し込んだ。
「駅からは近い場所だけど、迷わずに来られた?」
「はい、大丈夫でした」