〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「小宮山先生、今日、向かいにパスタ食べに行くんですけど、一緒に行きます? お弁当ですか?」
昼休みに入り、看護師が声をかけてくる。
病院前に数か月前にできたイタリアンのお店が美味しく、みんなよくランチに出かけている。
私も数度行ったことがあるけれど、生パスタのメニューはどれも美味しかった。
「ありがとう。そう、お弁当なんだ」
「わかりました。また行きましょう。ちょっと出てきます」
ランチに出て行く面子がそれぞれ「お疲れ様でした」と声をかけて休憩に入っていく。
自分のバッグからランチバッグを取り出し、休憩室へと入った。
小児科医になって四年。私──小宮山莉桜は、都内にある総合病院に勤めている。
医師を目指すことは、子どもの頃から町医者をしていた父を見ていて自然と目標になっていた。
ひとりっ子というのもあり、自分が父の医院を継ぐのだという使命感も少なからずあったと思う。
将来的には経験を積んだ後、父の医院で一緒に働き、いずれ後を継ぎたいと思っている。
そのために国家資格を取った後でも日々勉強の毎日だ。
ランチバッグからお弁当箱を取り出したとき、傍に置いていたスマートフォンがカタカタと振動する。
ん……? お父さん?
画面に表示されたのは父からの着信。
普段、滅多に電話はかかってくることはないから、どうしたのかと疑問に思いながら手に取った。
「はい」
《莉桜、今大丈夫か》
「うん、少し前に昼休みに入ったところ。どうしたの?」
《ああ……》
父は渋るように言葉を濁す。
黙って続きを待っていると、また《莉桜》と名前を呼ばれた。
《今晩、なにか予定がなければ帰ってこれないか。話があるんだ》
「話……?」
なんの話か言及しない父の様子に不安を覚える。
今日は仕事後、特に予定はない。
「わかった。特に予定もないから帰るね」
《ありがとう。じゃあ、また夜にな》
「うん、また」
通話を終え、食事を始めながら考えを巡らせた。