〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 父のどこか深刻な口調、冴えない雰囲気。なにかあったのだろうと考えて、思い当たる事柄はひとつ。

 父の医院のことではないだろうかと思う。

 父の父、私からみれば祖父が開業した『小宮山内科小児科』は、下町にあるごく普通の医院。

 お年寄りから子どもまで家族みんながかかれるような、地域密着型の医院だ。

 祖父から父が受け継ぎ守ってきた医院も、近年、街の変化と共に患者層が変わりつつあると聞いている。

 古くから通ってくれている患者さんは変わらずかかりつけ医として頼ってくれているけれど、新規の患者獲得は難しくなっているという。

 周辺には大手医療グループが経営するメディカルモールなんかもでき、初診はそういった新しい医院に流れてしまう。

 わざわざ、ゆかりもない古めな医院に飛び込んではこない。

 いわゆる実家の医院は経営難に直面しているのだ。

 以前も、父からそれらしい話はされている。

 できるかぎり廃業はしたくない。

 地域に根差した医院をこれから先も続けたいと、試行錯誤しながらなんとか診療を行っている。

 仕事を終え向かった実家は、病院と併設の一戸建て。医院と家屋が行き来できるような造りになっていて、医院は路面側、家屋は裏手となっている。

 祖父が建て、築年数もそれなりに経過しているというのもあり、五年ほど前、まだ私が医学部に在籍中だった頃耐震補強工事を行った。

 十八時までの診療を終えた小宮山内科小児科は、十九時を回る頃には灯りは灯っていない。

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