〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


「こちら、冷前菜となります」

 目の前に置かれた白いプレートには、捌かれた毛蟹が甲羅ごとのっている。

「毛蟹と彩り野菜のインサラータです」

 甲羅の中には蟹の身と、蟹みそも添えられている。その周囲を夏野菜とソースが飾り、まさに美的に設計された一品だ。

 普段あまりお目にかからない料理に、じっと熱い視線を注いでしまう。

「いただこうか」

「あ、はい」

「じゃあ、再会を祝って」

 白河先輩に倣ってスパークリングウォ―ターを手に取る。軽くグラスを持ち上げ乾杯をし、喉を潤した。

「今日は時間を作ってくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ。お誘いいただきありがとうございます」

 ナイフとフォークを手に取った白河先輩は、自然な所作で食事を始める。日常的にこういう食事に慣れ親しんでいるのだろう。

 あまりこういう席に縁のない私は、恥ずかしいことをしないようにひとつひとつ確認しながら食事を始める。

「あのとき、これを逃したらって連絡先を渡したけど、連絡もらえるかはわからないよなって。訊き返さなかったのを失敗したって思ってたから」

「そうだったんですか。あのときのお礼も言いたかったので」

「それはこちらこそ。でも、仕事のメールみたいなメッセージが来て笑ったけど」

「えっ!」

 ちょっと堅苦しい文章だったかもしれないと、やり取りの中で何度も気にはかかった。でも、先輩相手というのもあるからだろう、自然と丁寧な文章に。

 やっぱり笑われちゃう返しだったよね……。感謝申し上げます、とか、プライベートのやり取りで絶対おかしいもん!

 思い出すといまさら恥ずかしくなって赤面してくる。

 白河先輩は私の心情を知ってか知らずか、くすっと笑って「ごめんごめん」と言う。

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