〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「あんまり硬くならず話してほしいかなってこと。もっと、気楽に」
「はい、ありがとうございます。でも、私にとっては大学時代の先輩なので、やっぱり……」
そう答えながら、あの日のことを振り返る。
白河先輩と連絡を取り合った後、ずいぶん前のめりに返信をしていたと反省した。
返信の速さもだけど、届いたメッセージに既読をつけるのも早かった。
そのときはなにも感じてなかったけれど、後々思い返すと食いつきすぎな自分が恥ずかしい……。
なぜだがわからないけれど、とにかく返事が気になって落ち着かなかった。
普段、あんなにスマートフォンを手にしていることもないし、気にもしないのに。
「でもよかった、どんな形でも連絡をもらえて」
そう言った白河先輩は思い出したように「ああ、そうだ」と続ける。
「あのとき搬送された男性、うちの系列病院の救急に搬送されて」
「えっ」
「そのまま緊急オペになったけど、一命は取り留めたって聞いてる」
「そうでしたか……よかった。白河先輩のところに……」
搬送後、助かったのかどうか気がかりだった。少しでも携わった患者が無事とわかり、心の底から安堵する。
蟹の身にソースをつけて「いただきます」と口に運ぶ。蟹みその濃厚さと対照的なソースの爽やかさが口の中で絶妙に絡み合う。
「美味しい」と呟くと、白河先輩は「口に合ってよかった」と微笑んだ。
食事をしながらなにか話題はと考えて、この間少し話したことをふと思い出した。
「あの、白河先輩は、カナダから戻られたばかりだと言っていましたがどちらに?」
「うん、バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学に二年ほど。心移植のフェローで、主にⅤADを」
ⅤAⅮ──補助人工心臓の植え込みの症例をカナダでこなしていたようだ。
「先月下旬に戻ったから、ほんと会った日の数日前に日本に帰ったんだ」
「そうだったんですね」