〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 海外フェローは医師だからといって誰でも行くというものではない。

 向上心があり、もっと腕を磨きたい人が行く特別なものだと認識している。

 それに、ただ行きたいと望んでも簡単なことではない。

 上級医による推薦状が必要だし、それには人よりも実績とコネクションがないと難しい。

 もちろん、それなりの英語力もないといけない。向こうに行ってカンファレンスでの発言はもちろん、オペ中の指示を理解したり、プレゼンだってある。難なくディスカッションできるレベルの英語力がないとだめだ。

 おまけに、金銭的にも余裕がないと難しいのが現実だ。

 病院をグループ経営している家の後継者である白河先輩は、そのすべての条件が揃っていてカナダに行っていたのだ。

 以前、私自身も海外フェローについては少し調べたことがある。小児科医として、小児感染症のフェロープログラムが興味深く、行ってみたいなと思った。研究と臨床を深められるのは、この先医師として生きていく上で必ず強みになるからだ。

「海外フェローに行かれてたとは知らずだったので、本当にすごいなって」

「日本じゃまだ難しい治療とか症例なんかにも携われるのは、自分の経験と実績になるからね」

「こっちにいるときとは生活もがらっと変わるかと思いますけど、大変でしたか? お話聞きたいです」

「大変か。そうだな……?」

 私からの質問に、白河先輩は前菜を進める手を止めてグラスに手を伸ばす。

「こっちとは医療のシステムが違うから、手続き関係とか書類とか、保険とか。覚えて慣れるまで少し大変だった印象かな。あとは意外に、食べ物に慣れるのとか。気軽に食べられないってなると、日本食が恋しくなったり」

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