〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
こんな話を聞かされて白河先輩も微妙な気持ちにさせられているかもしれない。
スープを立て続けにスプーンですくい上げ口に運ぶ。話題のせいか、せっかくの美味しいスープが台無しだ。
「小宮山さん」
スープの最後のひとくちをすくい上げたときだった。
不意に呼ばれて顔を上げると、白河先輩の視線がじっと私に向いている。
「その縁談、今から断れないかな」
「え……?」
逸らされない目を見る限り、冗談を言っているようには見えない。
でも、そうじゃなければなぜそんなことを?
「同じ条件で、君の婚約者に立候補したい」
かけられた言葉がよくわからず、瞬きを忘れて彼の顔を凝視する。そのうちにぱちぱちと目をしばたいた。
「それは、どういう……?」
「そのまま受け取ってもらっていい。お父様の病院を守るために結婚をするなら、俺がその相手になりたいということ。それに、俺なら医師を引退して家に入ってほしいとは言わない。お父様の医院で一緒に診察をしてほしいし、引き継いでほしいと思ってる」
思いもよらない言葉の数々に思考が追い付いて行かない。
つい「すみません、ちょっと待ってください」と、自分を落ち着かせるためにも口にする。
そんなタイミングで「失礼いたします」とスタッフが個室を訪れ、次の魚料理を運んできた。
「赤海老のエチュベになります」
プレートの真ん中には、身が取りやすく捌かれた色鮮やかな海老がのり、その周囲に三種類のソースがパレットの上の絵具のように添えられている。
気を紛らわすように芸術的な料理を見つめてみても、一向に気持ちは鎮まらない。
そんな状況の私とは打って変わって、白河先輩はナイフとフォークを手に海老に取り掛かった。
目が合うと、微笑を返される。