〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「急にこんなことを言い出して、困らせちゃったかな」
「あ、いえ。ちょっと、内容を噛み砕くのに時間を要してまして……」
一番驚いているのは、白河先輩がなぜそんなことを言い出したのか。
冗談でなければ、その理由がわからない。
「あの、白河先輩。今のお話が冗談でないとすれば、なぜそんな話を私にしたんですか?」
ソースをからめた海老を口に運ぼうとしていた白河先輩は手を止める。「冗談なんてひどいな」と笑った。
「医大時代に好感を持っていた子に再会して、その子が困っているって知ったから助けたいと思った。一番の理由はそれ」
白河先輩に好感を持たれていた……⁉
追いつかない理解の中で更なる衝撃を受け、鼓動の暴走が止まることを知らない。このままでは、不整脈を起こして体がおかしくなりそうだ。
「もうひとつは、俺自身も早くパートナーを迎えて落ち着きたいってちょうど思っていたんだ。日本に帰って来てから、ちょっと困ったことがあって。家族ぐるみの付き合いがある古い知人に婚約を迫られている。もちろん、何度も断ってはいるけれど」
そんな話を聞き、この間の出来事が脳裏に浮かぶ。
白河先輩を下の名前で呼んでいた親しげな女性。
もしかしたら、あの女性のことを言っているのかもしれない。
「そんなタイミングで、小宮山さんに再会した。事情を知った今、申し出ない手はないと思ったから」
もしかしたら、白河先輩も身を固めてほしいとご両親に言われていたり、私のように縁談を用意されたりしているのかもしれない。困っていると言っている相手の女性も然り……。
とはいえ、圧倒的に家柄が違うから、私とは背景が違うだろうけれど。
「どうかな。と言っても、いきなりこんな話されても小宮山さん自身困惑するだろうし、縁談相手のこともあると思う。でも、絶対に今のお相手より君を幸せにできる自信が俺にはある」
真摯な眼差しに、誠実な訴えを受け、黙って彼の目を見つめる。
「だから、今の話は持ち帰って、お父様にも話してみてほしい。前向きに、考えてほしい」
白河先輩は最後にそう言うと、「食事しよう」と再びカトラリーを手に取った。