〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
白河先輩には、父と話をしたら一度連絡が欲しいと言われていた。
あの食事から一週間、私からの知らせを待つかのように白河先輩からの連絡はない。
実家から帰宅し、すぐにスマートフォンを手にして白河先輩にコールする。
日曜日の真昼間。向こうの予定も知らずに電話をかけながら、先に一度都合をうかがうメッセージを入れたほうがよかったかもと後悔しかけたとき、繋がった電話口から《ごめん》と白河先輩の声が聞こえた。
《待たせたね、申し訳ない》
「いえ、逆にすみません。突然かけてしまって。お忙しかったですか」
《昨日、緊急でオペになった患者の経過が気になって、今日は急遽病院に来てるんだ。でも、今ちょうど手が空いたところ》
「そうでしたか。お忙しいところに急にすみません」
まさか休日勤務に出ていたとは知らず、申し訳ない気持ちに苛まれる。
白河先輩は《気にしないで》と明るい声で言う。
《それより、電話をくれた内容のほうが気になるな》
「あ……はい。先日のお話を、今日、父にしてきました。父は、先輩との婚約に賛成を」
《そっか、よかった》
安堵したような声音。
私の「はい」という返事の後、ほんの少しの沈黙が流れる。
《すでに縁談相手がいたから、難しい申し出かもしれないとずっと気がかりで。だから、ホッとしてる》
「そんな……こちらこそ、気にかけていただきありがとうございます」
《近いうちに、お父様にお会いしたい。伝えてもらえるかな》
「はい、もちろんです」
スマートフォンの向こうから聞こえる彼の声を聞きながら、着実に進んでいる白河先輩との婚約がほんの少し現実味を帯びていた。