〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
3、前途多難な婚約
盆休みも過ぎ去った八月最後の日曜日。
少し前に入ってきた【ナビでは十六時五十分に到着予定】との連絡を受け、玄関を出て医院脇の小路を表に出て行く。
今日は、いよいよ白河先輩が父に挨拶にくる。
日程を擦り合わせる中で、父は澤井家に進みかけた縁談の断りを入れた。
太陽は西に傾き出しても、まだまだ容赦なく高温は維持されている。
〝休診〟と入り口ドアの内側にかけられた札を目に、医院に目を向ける。
ここで育ち、この医院を毎日見てきた子ども時代。
長く通ってくれている患者や、医師として医院に立つ父の姿。四季折々いろんな場面が思い出される。
これからもここにあり続けることを、私自身が強く望んでいると再確認していた。
近づいてきた車の気配に振り返る。見覚えのある白い高級外車が低速で私の前にすっと停車した。
運転席のパワーウィンドウが開き、白河先輩が顔を見せる。
「暑いのに、外で待っててくれたの」
「時間のお知らせをもらったので、出てきたばかりですよ」
「わざわざありがとう。車はどこに停めたらいい?」
すぐ隣の敷地を示し、「ここです」と案内する。
医院用に三台ほど月極で借りている駐車場。今日は休診日のためすべて空いている。
白河先輩は「了解」と言って車を駐車しにいった。
本当に実家へ白河先輩が訪れた現実を前にして、落ち着かなく心臓が動き始める。
いよいよ父と白河先輩が顔を合わせるのも緊張する。
「お待たせ」
「すみません、狭いところに車を」
「医院の隣に駐車場を設けているのは、いいね。脚が不自由な患者さんとか、高熱とかでしんどい人も通院しやすい」
白河先輩は駐車場を振り返り、患者目線なそんな言葉をかけてくれる。
「ありがとうございます。そうですね、近いのは私もいいと思います」
休診の医院の前に立った白河先輩は、穏やかな表情で医院を眺める。