〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「ここが、小宮山さんが育ったお父様の医院か」
「こじんまりとした病院ですけど、地域の方々には通ってもらってます」
「地域密着型のかかりつけ医。これから先もなくてはならない医院だ」
「はい」
白河先輩の言葉に気持ちが奮い立つ。何十年もの時が流れ、この街も大きく変化した。
時代と共に様々なものが形を変えていくけれど、うちの病院だけは変わらずここにある。
その変わらぬ良さを求めて通院してくれる患者さんたちのためにも、ここで安心してもらえる医療を提供し続けていきたい。
「では、こちらからどうぞ。狭いですけど、裏が住居になっていまして」
先導して玄関を目指す。扉が近づくにつれ鼓動が大きくなっていくけれど、なるべく意識しないようにして玄関扉を大きく開いて白河先輩を招き入れた。
「お邪魔します」
玄関先に入ったところで、奥から父が現れる。
もう少しで白河先輩が到着すると知らせたとき、いそいそとキッチンに向かい少し落ち着かない姿を見せていた。
「初めまして。白河と申します」
父と対面した白河先輩は、即座に丁寧なお辞儀を見せる。父のほうも深々と頭を下げた。
「初めまして、莉桜の父です。どうぞ、お上がりください」
挨拶を交わすふたりを見ながら、緊張は最高潮に達する。用意しておいたスリッパを先輩に勧め、リビングへと案内した。
「古くて狭い家までご足労いただき」
父は用意していた冷たい緑茶を取りにキッチンへ入る。
「もしお口に合えば幸いですが」
白河先輩が父に向かって紙袋を見せる。老舗高級和菓子屋のロゴが入った手土産を、父はいそいそと出てきて「お気遣いありがとうございます」と受け取った。
「先輩、どうぞかけてください」
「ありがとう」
先に座ってもらうように促し、父がカウンターに出した冷茶を三人分並べていく。
白河先輩と父が向かい合うように座り、私は白河先輩のとなりに腰を落ち着けた。