〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 長い夏休みが終わり新学期が始まると、久しぶりの園、学校生活の疲れが出て体調を崩す子が少し増える時期が毎年ある。

 今年は九月中旬頃から気管支系の咳の風邪をひいて来院する子どもが多い。

 今朝は朝から、すでに五人はこんこん咳をしながら診察室に入ってきた子を診ている。

「小宮山先生、十時四十五分の患者さん、キャンセルが入ったので次は十一時です。まだいらしてないので、束の間の休憩で」

 看護師が予約の状況を知らせに来てくれる。

「ありがとうございます。下田先生のほうは大丈夫ですか? もしフリーの患者さん待ってたら私のほうで診ます」

 勤める総合病院の小児内科は、私ともうひとりのドクターで診察を行っている。加えて、小児アレルギー専門のドクターが決まった曜日に週一で来ている態勢だ。

 ドクターの指名をしていない場合は、手が空いている方が診て診察を回していく。

「大丈夫です。お待ちの方、下田先生の患者さんなので。ありがとうございます」

 一旦手が空き、チェアの背もたれに寄りかかって体を伸ばす。デスクの脇に置いているマイボトルを手に取り、マスクを片側外して喉を潤した。

 帰ったら、引っ越し業者に申し込みしなくちゃ。時間があったら昼休みでもいいかも……。

 悠真さんのご実家に挨拶に行った日、送り届けてもらって一時間もしないうちに話していた新居の候補がデータで送られてきた。

 どの物件もそれぞれ良さがあり、共通しているのはとにかくラグジュアリーで機能的。その上、セキュリティ面は申し分ない。

 物件案内をひとつひとつ見ながら、何度「すご……」と呟いていたかわからない。

 その中で、目黒駅からほど近いマンションを先週末に悠真さんと見に行った。

 実際に住んでみたらを想像しながら部屋を内見し、ふたりとも高評価でその場で即決した。

 その日のうちに悠真さんが契約まで済ませ、あとはふたりの都合でいつ引っ越してもいいことになっている。

 予定では、次のふたりの休みで引っ越そうという話になっているから、事前に荷造りを始めておいて正解だった。

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