〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「小宮山先生、外来受付から小宮山先生に内線が」
ゆったりとお茶を飲みながら考え事をしていたとき、看護師から声をかけられる。受付から私に直接内線なんて珍しい。
備え付けの電話で通話に応じた途端、電話をしてきた受付の相手ではない声が受話器から聞こえた。なんと言っているかはわからない、なにか騒いでいるような声。外来受付でトラブルだろうか。
「小児科、小宮山です」
《小宮山先生、診療中にすみません。外来受付に、小宮山先生を呼んで欲しいと仰っている患者さんが来ていまして》
「私を、ですか?」
《はい。ちょっと騒がれていて、他の患者様のご迷惑になってしまう状況で》
小声で現状を伝えてくる受付の声の向こうから《小宮山っていう女医よ! 早く連れて来て!》と荒々しい女性の声が聞こえる。
電話越しに伝わる緊急事態に、「今行きます」と言って通話を終わらせた。
「すいません、ちょっと外来受付に行ってきます」
スタッフたちに声をかけ、診察室を飛び出した。
一体何事なのだろうと不安を募らせながら向かった外来受付は、何列も並ぶ待合いの椅子が埋まるほど混み合っている。
その受付の端で、三十代くらいの女性が困り顔のスタッフを睨みつけている。やって来た私の姿に気づいた対応中のスタッフが、助けを求めるようにして「小宮山先生」と私を呼ぶ。
「お待たせしました。小児科、小宮山です」
対面したのは、色白でワンレングスの黒髪を後ろで束ねた女性。白いTシャツに黒いパンツを履き、手にはキャンバス生地のトートバッグを下げている。
どこにでもいそうな、母親世代の女性だ。