〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
4、思わぬ急接近
週末、土曜日。
朝九時にはひとり暮らしの部屋に引っ越し業者が訪れ、用意しておいた荷物を運び出してくれた。
もともと、物を多く持つタイプではなく、荷物は比較的少ないほうだと思われる。
午前中のうちにはお互いの荷物が運び込まれ、引っ越し業者も帰っていった。
「なんか、荷物が少なすぎる……」
もともと住んでいた部屋ならちょうどいいミニマリストくらいだったものが、部屋が広いせいか物が少なく見えて不安になる。
「でも、必要なものを持ってきてこれなんだろう? 足りないものがあれば買い足せばいい」
家具や家電は、ひとり暮らし用のもので使い道がなくなり、捨てるには早いまだ新しいものはリサイクルにお願いした。
「莉桜は余計なものは持たない、みたいなタイプなんだ? でも、ちょっとイメージ通りかも」
早速お互いに荷解きを始めながら、悠真さんはくすっと笑う。
「イメージ通り、ですか?」
「サークル時代、莉桜は他の女子たちと違った印象だったから。たとえば、よく持ち物が変わってたりとかが、女子はあるあるだと思うけど、莉桜はバッグひとつとっても同じものを愛用してた記憶で」
悠真さんの言う通り、医大生の時代はお気に入りのリュックをずっと使っていた。機能性と見た目が気に入っていたからだ。
「よく覚えてますね。大正解です」
「ほら、俺が莉桜のことを気にかけてたってのが、少しずつ証明されてるだろ?」
さらりとそんな風に言われて、不意打ちでどきりとする。
婚約の話になってから、悠真さんが医大時代に私の存在を個別に認識していたと聞き、正直半信半疑だった。
悠真さんにとって自分は〝サークル後輩女子一同〟という括りの中にいると思っていたからだ。
でも、当時の私のことを克明に覚えていてくれているのを知ると、その話は本当なのかもしれないと思わざるを得ない。
すっかり高鳴ってしまっている鼓動を手を動かしながら落ち着ける。