〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
週明け、月曜日。
土曜日に引越しをし、週末は新居を整えるのに時間を要した。
そんな中でも悠真さんは学会発表の準備に忙しい最中のようで、昨日は自室にこもっている時間が多かった。
今日は当直勤務だと言っていたから、私が仕事を終えて帰宅しても顔は合わせない。
同じ医師でも科や勤める勤務先によって当直の有無に個人差がある。
そう考えると、一緒に住んでいても月に何度かは悠真さんは夜家を空けることになる。
同居早々にその日がきて、今日の夕食はなににしようかと考えながら勤務後の病院をあとにする。
なにか多めに作って、悠真さんが明日帰宅したら食べられるようにしておくのがいいかもしれない。
スーパーに寄ってみて、なにを作ろうか決めようと思いながら最寄り駅に向かっていたとき、目の前にすっと現れた黒塗りのセダンが停車する。避けて歩いていこうとしたところで、後部座席のパワーウィンドウが開く。
そこに見えた顔に思わず「あっ」と声が漏れそうになった。
「こんにちは」
現れたのは、以前、悠真さんのご実家で会った美玲さん。会うのはこれで三度目になる。
「こんにちは」
こんなところでばったり会ったことに驚きながらも頭を下げる。
美玲さんは車から降車し、私の目の前へやってきた。
今日はレースがあしらわれたシルクの黒いブラウスに、グレーのチュールスカートというシックな色使いながらも可愛さを忘れていないコーディネート。
髪型は長い髪を毛先だけワンカールし、黒いベロア調の太目なカチューシャをつけている。
「この度はご婚約、おめでとうございます」
突然かけられた祝福の言葉に困惑する。「ありがとうございます」と返したものの、彼女の表情はひどく冷たい。
「聞きましたわ。あなたのご実家の事情。その再建のために仕方なく結婚することになったと、悠真くんが話していました」