〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


「なにか手伝おうか?」

「ああ、いいよ。もうほとんど出来上がるところだから。食事の前に、少し話をしてもいいか」

 父はコンロの火を調整し、リビングに出てくる。

 揃ってソファに腰を落ち着かせた。

「話って、なにかあったの?」

 私のほうから切り出すと、父は小さく頷く。その視線は宙を彷徨い、すぐに私に向けられた。

「前からたびたび言ってはいたが、この病院を続けていくのがそろそろ難しいかもしれない」

「え……本当に?」

「今は、完全に経営難に陥っている。これ以上判断を先延ばしにすれば、いずれ莉桜に迷惑をかけることになる。そうなる前に、畳もうと思ってる」

 父はこれまで、病院経営の状況を詳しくは教えてくれていない。

 ただ、自転車操業だとは軽い調子で言っていた。

 それが今は、もしかしたら負債を抱えるほどになっているのかもしれない。

「なにか、畳まないでいい方法は見つからないの? きっとなにかあるはずだよ。私はここを継ぐ気でいる。だから畳むなんて言わないでほしい」

「もう、人様に頼るしか道は残っていない。でも、それは断ったんだ」

「断った? どうして? 解決できる方法があるなら病院を残すために縋ったほうがいいよ」

 訴えるような口調で言った私に、父は口を固く閉ざしたまま。

 ふたりの間に少しの沈黙が流れる。

「お父さん、私にも相談してよ。お父さんの後を継ぐつもりなんだから。病院を残すためにできることがあるんでしょ?」

 父の視線がこっちに向き、じっと目を見つめられる。なにか言ってくれそうな雰囲気を感じ取る。

 しかし、父は私から視線を逸らした。

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