〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


「──いや、やっぱり……」

「お父さん! 話して」

 強い口調で話を要求した私に、父は小さく息をつき、やっと重い口を開いた。

「澤井さん、知っているだろう。うちも、亡くなった爺さんのときから付き合いのある」

 澤井さんは、この辺りで古くから権力を持つ家。要は地主だ。

「うちの状況を知った上で、力になれないかと前々から言われていたんだ。莉桜に、ご子息はどうかと言われて……」

 父が言い渋った訳がやっとわかった。

 この病院を助ける代わりに、私との縁談を持ちかけられたのだ。

 いつからそんな話が出ていたのかは知らないが、私は初めてこの話を聞く。もしかしたら、かなり前から持ちかけられていたものの私には言わないでいたのかもしれない。

「でも、病院存続のために莉桜に結婚を勧めるなんてしたくない。だから断り続けてきたんだ」

 父が私を想って唯一の打開策を捨てたのは痛いほどよくわかる。

 仕事においても、家族に対しても、父が自分本位で動いたことは今まで見た記憶がない。

「その話って、まだ生きているの?」

「どういうことだ」

「私が嫁げば、ここを救ってくれるっていう話」

 父は驚いたような表情で固まる。

 自分でも不思議なくらい悩む間もなく口から自然に言葉が出ていた。

 ただ黙ってこの病院を畳む日を迎えたくなんかない。

 父の医院を守ることは、私のためでもある。

「本気なのか」

 確認するような父に、黙って頷き返した。

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