〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
ケガをした週末は安静にして過ごし、週明けから無理のない範囲で病院にも変わらず勤務することに決めた。
悠真さんにはまだ休んだほうがいいのではと心配されたけれど、月曜日は私の診ている患児の定期診療の予約が入っているからと説得した。
スタッフには事情を話し、普段よりもサポートしてもらいたいとお願いすると、ありがたいことにみんな快く引き受けてくれた。
週末安静にしていたおかげか、週の中頃には歩くのに痛みもほぼなく、足も腕も腫れは引き落ち着いた。
「一緒に出しに行けてよかったです」
当初の予定より一週間遅れて、今日はこれから婚姻届を提出しに区役所に向かう。時間的に休日夜間窓口への提出になる。
「今日こそは夫婦にならせてもらわないと」
ハンドルを握る悠真さんは綺麗な横顔に笑みを浮かべる。
ケガをする前に書いた婚姻届を昨日改めて見て、いよいよそれを出すと思うと身が引き締まる。
届を提出すれば、正式な夫婦になるのだ。
区役所の駐車場に到着する間際、フロントガラスにぼとっと大粒の雨粒が落ちてくる。
「雨……」
それはあっという間に次々とガラスに降り注ぎ、叩きつけるような雨となっていく。
「すごい雨だな」
「傘、持ってないです」
「大丈夫だ、たしか駐車場から濡れないで行ける」
地下駐車場へと入り、通用口に近いスペースを見つけて駐車をする。車を停めた悠真さんはすぐに私の乗る側へと回った。
開いたドアから手を差し伸べられる。もうひとりでも普段通り歩くことはできるけれど、悠真さんは当たり前みたいに手を貸してくれる。
「ありがとうございます」
触れる瞬間、毎回一瞬緊張が募る。もう何度も手も繋いでいるのに、それでも未だに慣れない。
いつになったら平常心でいられるのか未知だけど、これまでこういう経験に乏しい人生を送ってきたのだからそんなに簡単ではないだろう。