〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「緊張する?」
窓口に向かいながら、悠真さんが私を覗き込む。
その表情はいつも通り穏やか。どうやら緊張はしていない様子。
「そうですね……緊張というか、まだよくわかっていないというか」
こんな自覚も薄い調子で婚姻届を提出していいのかと不安になったとき、不意に頭の中に先日の出来事が蘇る。
『悠真くんは私と結婚するつもりだったから。彼の気持ちは私にあるの』
美玲さんの言葉はずっと頭の片隅でくすぶっていて、こうして定期的に蘇ってくる。
悠真さんは美玲さんへの気持ちを置いて、私と婚姻を結んでもいいのだろうか。
「悠真さん、あの……」
最終確認を取らなくてはいけないと気持ちが逸り、言葉も選ばず口を開く。悠真さんは黙って私を見つめた。
「本当に、私との婚姻を結んでいいのですか」
なんと訊いたらいいのかわからない。でも、余計なことを並べる必要はない。今ここで、私を妻としていいのか、それだけだ。
「なにを言ってんだ。当たり前だ。この日を待ちわびていた」
でも、悠真さんからは即答で返事が返ってくる。一瞬の迷いを垣間見せることなく、真っ直ぐに私だけを見つめて。
その目を見て、それ以上の言葉は波が引くように静かに消えていった。