〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
時間外の窓口は、警備の人間が書類を受け取るという、想像よりも呆気ないものだった。正式には明朝の開庁後に職員による受理となるらしい。
その後、ささやかに婚姻の祝いでふたりで食事をしてから帰宅した。
「だいぶ薄くなってきたかな……」
入浴後、リビングのソファにかけて腕と脚の打撲痕を観察する。ケガをした直後、打撲の急性期三日ほどは冷湿布を使って様子を見ていた。痛みが弱くなれば湿布を貼り続ける必要はなく、あとは痣が消えていくのを待つだけだ。
それにしても痣が痛々しい。治りかけてきて、少し黄色く皮膚が変色してきている。
「もうほとんど痛みはないのか」
傷跡を見ていたところに、シャワーを浴びた様子の悠真さんがやってくる。
洗いざらしの髪をタオルで無造作に拭きながら、私の目の前まで来ると腕と脚に視線を落とした。
「はい、おかげ様で。見た目はかなり痛そうですが、もうぜんぜん」
「そうか、よかった」
「ご心配をおかけしました。そのせいで、たくさんお世話もしてもらって……」
何度も運んでもらったし、手を貸してもらった。髪も乾かしてもらったし、いつもそばで気遣ってもらった。
「こんな痛々しいケガをした莉桜に言うことじゃないけど、今回の一件で莉桜との距離は縮まった気はする。再会して、とんとん拍子で婚約して、いきなり夫婦になるって、やっぱり距離間掴めない部分があるんじゃないかと思ってたから」
悠真さんの言う通り、確かに今回のケガの一件から、悠真さんとはぐっと距離が近づいた気はしている。
物理的な部分でも、気持ちの部分でも、ケガをする前よりも関係は一皮むけた感覚がある。
「私も、同じことを思ってました。結果的に、今回のハプニングはふたりの距離を縮めるきっかけになったのかなって」
でも言ってみて、急にバツが悪くなる。悠真さんはいいけれど、散々迷惑をかけた身がする発言ではない。
「って、悠真さんは大変だったのに呑気なこと言ってすみません」
訂正を兼ねて謝罪をした私の隣に悠真さんが腰を下ろす。
不意に手を取られ、両手で包み込まれた。