〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 父と話してから半月ほどが経った七月下旬。

 先週、梅雨明け宣言がされた関東地方は、今年も厳しい暑さを迎えている。

 今朝も朝からじりじりと照り付ける太陽と、アスファルトの照り返しで体感温度はかなり高い。

 油断をするとすぐに日焼けをするし、外を歩けばあっという間に汗ばむ。

 そんな夏真っ盛りの中、カチッとしたオフホワイトのワンピーススーツを身に纏い、今日は都内のホテルで見合いの席に出席している。

 となりには父、向かいには縁談相手の澤井家の長男、隆さん。そのとなりに澤井家の当主が並ぶ。

 今日は堅苦しい席ではなく、ホテルのラウンジでまずは顔合わせという形になった。

 澤井家の長男である隆さんは、私よりひと回り以上年上の四十二歳。

 記憶の遠いところで、小学校、中学校は同じ地元の公立学校だったと憶えている。

 特別交流があったわけでも、友達だったわけでもない。

 ただ、地主である澤井家の息子という記憶だけだ。子どもの頃の姿もほとんど記憶にない。

 こうして対面してみると、大人しそうな人で口数も少ない。父親に話題を促されて返事をする程度だ。

 数か月もすれば、自分はこの人の妻という肩書きになっているのかと思うと正直ピンとこない。

 父の話をすんなり受け入れられたのは、病院の危機を救うためはもちろん、それ以前に私には拒絶する大きな理由がなかったからだ。

 交際している相手がいるわけでもなく、想いを寄せている人がいるわけでもない。

 見合いをして結婚をしたとしても、特に大きな問題はないからだ。

 もしもそういう相手がいたとすれば、簡単にはいかなかったかもしれないけれど……。

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