〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 その晩、実家から帰宅するとまだ悠真さんの姿はなかった。

 入浴をし、読もうと思って買っておいた本を読み始めると、玄関のから帰宅の気配を感じた。

「お帰りなさい」

「帰ってたか」

「はい。食事会、お疲れ様でした」

 悠真さんは手に持って帰ってきたスーツのジャケットをソファの背もたれにかける。

「新婚なんだから早く帰るといいって、帰してもらえたよ」

 どこか嬉しそうに言う悠真さんに胸がときめく。「そうでしたか」と返事しながら、つい顔が緩んでしまった。

「お義父さんは、変わらずだった?」

「は、はい」

 答えながら、今日の父の様子を思い出す。やっぱり思い返してみるとどこか気にかかる。

「変わらずではあったと思うんですが……心なし、どこかいつもと違ったというか」

「いつもと違う? どういったところが」

「どういったところかと具体的に言うのはなんか難しいので、私の考えすぎかもしれないんですけど……なんとなく、元気がないというか」

 決定的ななにかがあったわけではない。ただ、なんとなく感覚的なものだ。それくらいを心配だと言うのは大袈裟かもしれない。

「そうか。それは心配だな。なにか、気がかりなことがあるのかもしれないし……」

 私からのはっきりしない報告にも、悠真さんは親身になって考えてくれる。

「近いうちに、俺もお義父さんを訪ねてみるよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

 私と一緒になって父のことを心配してくれる悠真さんの優しさに、ざわざわしていた心が落ち着いていくのを感じる。

 今まで、実家のことも父のことも、唯一の家族が父だけだった私は、なんでも自分ひとりで解決しようとしてきた。

 だから、こうして気にかけてくれる悠真さんの存在は心強い。

 きっと、取り越し苦労のはず。そう思って気持ちを落ち着けた。

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