〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
5、庇護欲と独占欲と
「白河先生、午後一の松本さんの同意書一式揃ってます」
「ありがとう。輸血はどうなってる」
「赤血球四単位、確保済みです」
回診後にスタッフステーションに立ち寄ったところ、午後に入る冠動脈バイパス術のオペの件でオペ看に捕まる。
「グラフト、静脈の状態は?」
「はい。採取は問題なさそうと聞いてます」
看護師と確認を進めている最中、別の看護師が「白河先生」と横から声をかけてくる。
「お話中すみません。先生、お客様がお見えです」
「あちらに……」と言われた方に目を向けると、美玲が胸の前で小さく手を振っている。
こんなところにまで来て、一体なんの用なのか。
心の中で深いため息をつき、オペ看との確認を終わらせた。
「病院にまで来てどうした」
仕事の場でプライベートな話をする気にはならず、スタッフステーションから少し場所を移す。
美玲は軽快な足取りで後ろをついてくると、横から笑顔で顔を覗き込んできた。
「悠真くんに会いたいから会いにきたに決まってるでしょ?」
冗談か本気かどちらでもいいけれど、新婚の異性にかける言葉とは到底思えない。たとえ古くからの知人だとしても常識的ではない。
西園寺家とは、数代前から家族ぐるみの親交がある。
『西園寺医療機工株式会社』は、手術機器から人工心肺まで医療機器メーカーとしては国内で五本の指に入る大手企業だ。
そんな西園寺家の令嬢である美玲とは、幼少期から顔を合わせる機会も定期的にあり、互いの両親が『将来結婚させよう』と言っていたとも聞いている。
その約束が生きていると言わんばかりに、美玲は婚約を急かしていた。
何不自由なく育った彼女には、手に入らないものはなかったのだろう。
未だにこうして俺の元を訪れるのも、まだ〝結婚〟を諦めきれないのかもしれない。