〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
6、忍び寄る影
今年も残暑が長く続いたものの、十一月にも入れば日中も長袖に羽織りものが必要な日が増えていき、いよいよ短い秋がやってきたと感じる。
二十度を少し下回るこのくらいの気温が一番過ごしやすく、一年の中でも一番好きな季節だ。
お昼休み。今日は珍しくお昼を調達しようと、病院併設のコンビニに足を運ぶ。
患者や病院関係者が利用するコンビニは、どの時間帯に行っても人の出入りが盛んだ。特にお昼の時間帯はレジに列ができることも多い。
「あら、小宮山先生のところの!」
サラダとおにぎりを買ってコンビニを出てきたところ、コンビニに入ろうとした人物に正面から声をかけられる。
「佐藤さん。こんなところで、こんにちは」
声をかけてきたのは、父の病院に古くから通ってくれている患者の佐藤さん。
佐藤さんの息子は私よりも年上で、父は佐藤さん一家を今はお孫さんの代まで診察している。
実家の医院をかかりつけ医にしてくれている方だ。
「先生はこちらがお勤め先だったのね! 驚いたわ」
「はい、ここの小児科で。佐藤さんも受診ですか」
「そうなのよ。循環器科のほうに今通ってて」
佐藤さんは「そんなことより!」と話を変える。
「小宮山先生、病院畳んじゃうんでしょ? 驚いちゃったわよ」
「えっ?」
佐藤さんから出てきた言葉に耳を疑う。
病院を、畳む……?
「あの、それはどういう……?」
私が訳がわかっていない様子を見せたからか、佐藤さんは一瞬不思議そうな表情を浮かべたものの、「ごめんなさいね」と声を潜めた。