〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
でも、こうしていざ見合いの話が進みだすと、これまでの人生がもう少し実りあるものであってもよかったなと薄っすら後悔のような思いが過る。
今年で二十八歳になり、振り返れば恋愛とは縁のない彩りの少ない人生だった。
私はこれまで、置かれた場所でそのときにやるべきことに全力で取り組んできた。
学生時代は第一に勉強。中学、高校は部活にも励んでいた。
医師になるという明確な目標が幼い頃からあったというのも大きいのかもしれない。
医学部に入り、在学中の六年間もひたすら勉強に明け暮れた。その後、医師免許を持ってからは仕事一筋で生きてきている。
振り返らずに駆け抜けてきた結果、甘酸っぱい経験などひとつもなく、最近それに気づきハッとした。
縁談の話が出て、いざ結婚という方向に向かい出すと、一度くらい恋愛というものを自身で体験したかったと今更すぎる願いが浮上したのだ。
そんな余計なことが頭をいっぱいにするから、こうして顔合わせの場でも話が右から左に通り抜けていくだけ。
こんなことではいけないと、邪念を振り払って目の前の席に集中する。
私の選択は間違ってなんかない。私が守りたいものは、祖父が残し、父が育ててきてくれたうちの病院。
私は小宮山内科を継ぐために、自分はなにをしたらいいのかと選択を繰り返してきたのだ。勉強に取り組むことも、仕事に打ち込むことも、すべては病院後継のため。
だからこの結婚も、病院を残すための選択。
「結婚をしてうちに入ってもらったら、できれば早く孫の顔が見たいなぁ」
父に今回の縁談を持ちかけてきた隆さんのお父様がにこにこと笑みを浮かべながら言う。
まだ顔合わせの段階で孫の話をされるとは思いもせず、作った笑顔がひきつりそうになる。
父も同じ思いだったのか、横ではははっと笑うだけ。
「莉桜さんには、澤井家の嫁としていずれうちに完全に入ってもらいたい」
そう言ったお父様は息子に向かって「そうだよな、隆」と同意を求める。
隆さんは「そうですね」と即答した。
「もちろん、小宮山内科は残すのが約束です。小宮山先生には、生涯現役を貫いていただいて」
確かに、うちの病院を存続させてくれるという話は生きている。でも、私がそこを継ぐというのは許されないのだろうか。
完全に家に入ってほしいというのは、そういうことではないか……?
「お客様の中で、医師の方はいらっしゃいませんか⁉」