〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 午後の診察はまったく身が入らず、とにかく医療事故に繋がる指示のミスだけしないように努めた。

 勤務が終わり、一目散に病院を出て実家を目指す。

 いくら考えても話がおかしい。

 父を貶め、そこまでして医院を奪う理由が思い当たらない。

 土地の買収や、医院を吸収したいとしても、そんな手荒な真似をするものだろうか。

 十七時にもなればすっかり暗くなり、帰宅した実家の医院も看板が点灯している。

 幼い頃からずっと見てきた何気ない病院の風景。

 今はそれを見つめる目がわずかに潤んでしまう。

 目に映るこの景色を、ずっと守っていくと心に決めて今までやってきた。

 だから、なにがあっても守り抜く。

「ただいま」

「莉桜」

 私の帰宅の気配に父が玄関まで出てくる。

 前回帰宅したときは、私が帰ったことにも気づかなかった父。ダイニングテーブルにかけ、珍しくお酒なんて飲んでいると思った程度だった。

 でも、あのときすでにこの話は進んでいたに違いない。

「本当に、すまない」

 父は私と顔を合わせるなり謝罪を口にする。

「お父さんが謝ることじゃない。その話がおかしいよ」

「でも、公的な文書にサインを残してしまっている」

「だから、それだって騙されたようなものじゃん!」

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