〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


 つい言葉に力が入る。

 父を責めているわけではないのに、私の声で父が小さく縮こまっていくように見えた。

「だってそうでしょ? 話は呑めないって断っているのに、いつの間にかサインも、指印もされていたなんて……それで、偽造した証拠はどこにあるのかなんて、そんなやり口有り得ない」

「初めから、話すら聞きに行かなければよかったんだ。そこにさえ行かなければ、こんなことにはならなかった」

「違うよ、お父さんは悪くない。だって普通、眠らせて意識混濁している人に契約を交わさせるなんて考えもつかないよ。普通じゃない。それを指摘したら、証拠がないなんて、初めからそうするつもりだったってことでしょ」

 私が熱弁しているのに対し、父は憔悴しきっている。無理もない。父が一番この事態に困惑し思い悩んでいるのだから。

「その話を持ちかけてきた、医療系の企業って? 契約書とか、書類は?」

 私が来ると言っていたからすでに用意しておいてくれたらしく、ダイニングテーブル上にA4サイズの封書が置かれてある。

 その封書に印刷されている『西園寺医療機工株式会社』という社名に目が留まる。

 西園寺……?

 珍しい苗字には覚えがある。

『わたくし、西園寺美玲と申します。悠真くんとは、古くから家族ぐるみのお付き合いをしてきています』

 初めての挨拶で自己紹介してきた美玲さんが鮮明に蘇る。

 まさか、彼女が関係している……?

 確信に近い思いがこみ上げ、その場で封書に記された会社の電話番号を記録した。

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