〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


「悠真さん、お話があります」

 なにから切り出そう。どう話そう。ぼんやりする中でも頭の中でずっとそればかりぐるぐるしていた。

 でも、気持ちが話すことを拒否して、考えることすら強制終了されていく。

 その繰り返しで、悠真さんが帰宅するまでに整理したかったのに無理だった。

「話……?」

 でも、もう考えている時間はない。

「はい。離婚、していただきたいんです」

 なるべく躊躇いなく聞こえるように努める。

 でも、どうしても本心じゃないために言葉が詰まりかけた。

 唐突な申し出に、悠真さんの顔から表情が消える。

「もちろん、ご支援いただきましたものはお返しします。なので、これに……」

 そばに置いておいたバッグから、昼間記入した離婚届を取り出す。ふたつ折りのそれを広げ、悠真さんの前に差し出した。

 薄い紙が微かに振動する。勝手に指先が震えているのに気づき、慌てて目の前のローテーブルに書類を置いた。

「莉桜、突然どうしたんだ。こういう冗談はさすがに好きじゃな──」

「冗談でこんなこと言わないです。本気です」

「理由はなんなんだ。急にこんなことを言われたって納得するわけないだろ」

 悠真さんの言う通り。逆の立場であれば、間違いなく同じことを訊くはずだ。

 理由を問われて、瞬時に返事ができない。

 私の本心ではないから、事前に決めておかなくてはすんなり言葉が出てこない。

「好きな人ができたからです。その方と一緒になりたいから、別れてほしいんです」

< 78 / 89 >

この作品をシェア

pagetop