〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「悠真さん、お話があります」
なにから切り出そう。どう話そう。ぼんやりする中でも頭の中でずっとそればかりぐるぐるしていた。
でも、気持ちが話すことを拒否して、考えることすら強制終了されていく。
その繰り返しで、悠真さんが帰宅するまでに整理したかったのに無理だった。
「話……?」
でも、もう考えている時間はない。
「はい。離婚、していただきたいんです」
なるべく躊躇いなく聞こえるように努める。
でも、どうしても本心じゃないために言葉が詰まりかけた。
唐突な申し出に、悠真さんの顔から表情が消える。
「もちろん、ご支援いただきましたものはお返しします。なので、これに……」
そばに置いておいたバッグから、昼間記入した離婚届を取り出す。ふたつ折りのそれを広げ、悠真さんの前に差し出した。
薄い紙が微かに振動する。勝手に指先が震えているのに気づき、慌てて目の前のローテーブルに書類を置いた。
「莉桜、突然どうしたんだ。こういう冗談はさすがに好きじゃな──」
「冗談でこんなこと言わないです。本気です」
「理由はなんなんだ。急にこんなことを言われたって納得するわけないだろ」
悠真さんの言う通り。逆の立場であれば、間違いなく同じことを訊くはずだ。
理由を問われて、瞬時に返事ができない。
私の本心ではないから、事前に決めておかなくてはすんなり言葉が出てこない。
「好きな人ができたからです。その方と一緒になりたいから、別れてほしいんです」