〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
日もすっかり短くなり、十七時を過ぎると外はもう真っ暗。今日はコートにストールも巻きたいほど風も冷たく、父と乗り込んだタクシーのフロントガラスには少し前から冷たい雨粒がぽつりぽつりと落ちてきている。
「悠真くんにも、ご両親にもお会いするのは久しぶりだな」
式典に出席するためにきっちりと黒いスーツを着込んだ父は、穏やかな表情で窓の外を眺めている。
なにも知らない父には申し訳なく思う。数時間後には、離婚という事実を知ることになるのだ。
「お父さん」
「……どうした?」
「ごめんね」
心苦しさから逃れたいのか、つい謝罪が口をつく。
父の不思議そうな視線を受け、「今日、一緒に来てくれて」と微笑んだ。
白河総合病院は今年で開院五十年という節目の年を迎え、記念式典が執り行われる。
会場となる老舗ラグジュアリーホテルにタクシーで到着すると、本日の催し物案内に開院記念式典が記されていた。
かなり大きな会場を貸し切って行われるようで、多くの来賓が訪れることが予想される。
父と共に受付を済ませ、すでに多くの人で賑わう会場に足を踏み入れた。