〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
病院関係者の挨拶から始まり、医師会や病院団体などからの来賓祝辞を終えると、乾杯の挨拶で会場は歓談となる。
食事は立食形式で、各々が会場のところどころにある提供場所に食事を取りにいく。
まったく食欲のない私の前には、ウーロン茶の入ったグラスのみが置かれている。
父は少し前に知り合いのドクターと顔を合わせ、挨拶回りに席を外した。
「莉桜」
そばから声をかけられ振り向くと、悠真さんが歩み寄ってくる姿が目に飛び込んだ。
一か月以上顔を合わせなかったせいか、離婚する話がまとまっていないからか、今までにない緊張感に包まれる。同時にぎゅっと胸の辺りが締め付けられた。
でも、悠真さんはいつも通りほんのり穏やかな笑みを浮かべる。
「出席ありがとう。お義父さんは?」
「知り合いの先生に会って、少し話をしに。その辺りにいると思います」
「そうか」
「あのっ……」
勢い余って声が出る。今日、この祝賀会のあとに時間をもらえるのだろうか。
「先日のお話は、今日していただけますか?」
なぜだか悠真さんはまた笑みを浮かべ直す。口角を上げたその表情に釘付けにされた。
「今日、すべて決着をつける」
「え……?」
どういう意味だろうと訊き返そうとするのを遮るように、悠真さんに声をかけてくる人たちが現れる。
悠真さんは最後にもう一度私に微笑みかけ、談笑しながら立ち去っていった。
きっと、悠真さん自身もこの期間いろいろ考えたのだと思う。
決着をつけるというのは、私たちの関係を清算するという意味だろう。
三時間近い祝賀会は常に賑わいをみせ、業界で顔の広い人にとってはあっという間の時間だったに違いない。
会自体がお開きになった後も歓談が終わらない人も多く、会場はまだしばらく解放されているとアナウンスが入った。