〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「あら、あなた招待されていたの?」
一旦会場を出ようとしていたとき、目の前にワインレッドのドレスが立ちはだかる。
うまいことやり過ごして顔を合わせず立ち去りたいと思っていたのに、最後の最後で美玲さんに捕まってしまった。
美玲さんは私の姿を舐めるように下から上へと眺め、ふふっと嘲笑する。
自分の華やかさに比べ、私が地味でくすんでいるように目に映るのだろう。ドレスの美玲さんに対し、私は面白みもない黒のパンツスーツだ。
「先日の話も兼ねて、今日は……」
美玲さんは「そう」と大して興味もなさそうな反応をみせる。
「私にとって今日は悠真くんとの新たな門出の日だから、挨拶回りに忙しいわ」
もう、悠真さんの新たなパートナーとして公に美玲さんが紹介されているのだろう。
美玲さんの誇らしげで嬉しそうな表情、弾んだ声に心は荒んでいく。
早く話をつけて静かに消え去りたい。
「あっ、悠真くん!」
美玲さんが一段と高い声で悠真さんを呼ぶ。その先に悠真さんの姿が見え、思わず目を伏せた。
目の前にいた美玲さんがそそくさと悠真さんの元へ行き、ぴったりととなりをキープする。
並んだふたりがお似合いで、わずかなショックと共に腑に落ちた。
「ご婚約されたと伺いました! おめでとうございます!」
周囲からふたりに向かってそんな声がかけられる。連鎖するように人々の注目が集まっていき、邪魔をしないように端に身を寄せる。
この盛り上がりが落ち着いてから話をして帰ろうと陰から見守っていると、不意に悠真さんと目が合った。
「いつから俺が君の婚約者になったんだ?」
スーツの腕に絡みつく煌めくネイルが施された美玲さんの手を引きはがす。
そのまま一直線に悠真さんが迫ってきて、驚く間もなく腰に回された手に引き寄せられた。