〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「後にも先にも、俺の妻は莉桜だけだ」
悠真さんの発言に息を呑む。
周囲がしんとしたと思えば、一気にざわめきが起こる。
笑顔を消した美玲さんが悠真さんの前へとやってくる。
「だって悠真くん、この人とは別れるって──」
「別れさせようとあの手この手を使っておいて、まさか俺がなにも知らないとでも?」
言葉を連ねるたびにひと言ひと言が冷たく尖っていく。
美玲さんは「なにを言っているの?」と縋るように悠真さんにまた触れようと近づく。悠真さんはそんな彼女を手で払うようにして拒否した。
「白を切るならいい。すべて調べはついている」
はっきりとした言葉でそう言った悠真さんは、美玲さんを冷え切った視線で凝視する。
「莉桜が駅の階段から落ちた事故……あれは、君の差し金だったようだな。君が依頼をした人間は突き止めて白状させた」
衝撃の事実に瞬きを忘れる。
美玲さんに、私を階段から落とすように頼まれた人間がいたっていうこと……?
「それだけじゃないよな」
そう言った悠真さんは「入ってもらって」とそばのドアに控えていたスタッフに向かって声をかける。
スタッフに促されて会場に入ってきたひとりの女性。式典向きの格好ではなく、デニムにオーバーサイズのスウェットプルオーバーを着ていて、顔を見ると「あっ」と声が出そうになる。
「覚えがあるか」
「はい……いつだか、勤務先の病院にクレームに来られた……」
受付で騒いで、話を聞くと言うとそそくさと帰ってしまった女性。まったく見覚えのない方で、診察をした記憶がなく不思議に思ったのは記憶に新しい。
「この方は……」
「美玲に雇われた偽患者家族だ」
「偽、患者……」
次々に出てくる驚愕の内容に頭がついていかない。
階段から落ちたことも、病院へのクレームも、どこか不思議な感じがしていたのは確かだ。
でもまさか、美玲さんが仕組んでいたことだなんて考えるはずもない。