結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~

婚約を破棄された御曹司

「もう耐えられない!」

 感情的な女性の声に反応して、その場に立ち止まる。
 目を凝らすと、数メートル先に向かい合う男女を見つけた。

「私はこんなにも冬馬(とうま)さんを愛しているのに! あなたの視線は、いつだってほかの女たちに向けられてばかり。ぜんっぜんこっちを見てくれないんだから」

 痴情のもつれか。激しい口調には、恨みつらみが滲み出ている。
〝女たち〟という言い回しから連想するに、ろくでもない男だ。不快感に表情がゆがむ。

「我慢の限界よ!」

 それにしても、こんな目立つ場でよくやるなと呆れる。
 というのもここは私、青山(あおやま)瑞希(みずき)の勤める国内大手化粧品会社【グランドコスメ】の本社のエントランスだからだ。さらに、同じビル内には親会社である【進藤(しんどう)ホールディングス】が入っている。

 定時を過ぎたところで、この場にはそれなりに人がいる。会社の顔とも言える場所で迷惑な騒ぎを起こすのは誰なのかと、身を隠しながら近づいてみた。
「え?」

 よく知る男性に、まさかと驚きの声が漏れる。
 身長は男性の平均よりもずいぶんと高く、きっちりと整えられた髪はわずかに茶色がかっている。地毛だそうだが、その色合いが軽薄そうな印象を与えがちだ。しかし目つきはいつ見かけても鋭くて、甘さは微塵も感じさせない。

 胸もとで腕を組みながら、鋭い視線で相手の女性を見つめる。そんな不遜な態度の男は、グランドコスメの社長であり、進藤ホールディングス会長の息子である進藤冬馬(とうま)、三十一歳。彼はいずれ父親の後を継ぐと目されている人物だ。

 ということは、声をあげている女性は芸能事務所【ネクストアーツプロダクション】社長の娘、笹島(ささじま)奈央(なお)のはず。さらに半歩ずれて確認したところ、思った通りだった。
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