結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 彼とは対等な関係でないとわかっているけれど、我慢するばかりの生活ではすぐに破綻しそうだ。この機に、言いたいことは主張するべきだろう。

「仕事は続けたいです」

「ああ。職を失って、離婚後に困るのは君だからな」

 ひとつ目はクリアだ。

「私、これまで休日は趣味を楽しむ時間にしていたんです。映画を見るとか、カフェ巡りとか」

 怪訝そうな顔をしながらも、進藤社長は口を挟まずに聞いている。

「結婚しても、おひとり様ライフを満喫させてもらいます!」

 これだけは譲れないと気持ちが昂りすぎて、少々声が大きくなってしまったかもしれない。

「……好きにすればいい」

 勢い込む私とは対照的に、呆れを含んだ口調で返される。

 さすがにこの返しは冷たすぎない?
 少しだけいい人かもしれないと傾きかけていたけれど、撤回だ。きっとこの人は、他人の心の機微がわからないに違いない。

「言いたいことはそれだけか?」

 不満を隠して、とりあえずうなずく。

「それなら、契約は成立だ」

 すっと腕を差し出されて、慌てて彼に倣う。
 握手を交わす進藤社長の手は、イメージ通り少しヒンヤリとしていた。

「よろしく、瑞希」

 フッと笑った顔が、悔しいほど様になっている。
 けれど、そんなことよりも私をドキリとさせたのは、不意打ちの名前呼びだ。

「俺たちは夫婦になるだろ? 忌々しい噂を払しょくするためにも、仲が良好な夫婦を装ってもらわなければ困る」

「わ、わかりました……冬馬さん」

 大丈夫。お互いに関心がないのだから、結婚しても生活に劇的な変化はないはず。

「どうぞ、よろしくお願いします」

 不安はあるが、精いっぱい微笑み返してみせた。


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