結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
* * *

 冬馬さんの性格から想像した通り、結婚までの手続きは実に事務的だった。恋愛関係ではないのだから、それも当然だろう。
 ただ、婚姻届がまさか社内便で書類に紛れて回ってくるとは思わなかった。

 本人以外開封厳禁と記された封筒を、なんだろうといぶかしみながら開く。中に入っていたのが、まっさらな婚姻届だ。
 思わず変な声が漏れそうになったが、なんとかのみ込む。同僚から向けられた不審そうな視線は、曖昧な表情でやりすごした。

 休憩時間になり、誰も使っていない部屋に入ってあらためて封筒の中を確かめた。最初は気づいていなかったが、用紙には付箋が貼られている。

【三日以内に記入して戻すように】

 整った、読みやすい字だ。厳しい印象を与える少し角ばったところが、いかにも冬馬さんらしい。こちらの都合を考えない提出期限も彼が言ってきそうだと、苛立つどころか笑ってしまった。

 彼の欄に記入がまだないのは、これを悪用されないようにという警戒心からか。
 当然そんなことをするつもりはないけれど、これから結婚するというのに、ふたりの間には信頼関係すらないのだと実感させられる。

 でも、あたりまえか。
 私たちはこれまで仕事以外で接点のなかった他人だ。直接言葉を交わしたのだって多くはないし、これで信頼できるはずがない。
 一度深呼吸をして、私の欄を記入する。保証人欄はちょっと迷ったが、身近な人にお願いしたら、両親にどんなふうに話が伝わるかわからない。

 そこで、前に部屋を借りるときにもお世話になった代行を請け負う行政書士に連絡を入れ、帰宅時に立ち寄った。
 記入済みの婚姻届など、さすがに社内便では回したくない。翌朝はいつもよりずっと早めに出社して、始業前に冬馬さんに渡すことにした。

 社員はまだほとんど出社しておらず、秘書課は誰もいない。
 さすがに始業の一時間以上も前に来るのは早すぎたかもしれない。妙な緊張感に急かされて、ついこの時間に出てきてしまった。私よりも早く出社していることが多い冬馬さんでも、さすがにまだいないだろうか。
< 17 / 145 >

この作品をシェア

pagetop