結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「よく考えたら、私たちは社内恋愛したって状態でしょう? 別れたなんて、印象が悪すぎるっていうか。あっ、でもそれはそれで、よりよい再婚相手が名乗り出やすくなるかもしれないですけど」

 私なんかとは違って、彼にも会社にもメリットがある相手。それは冬馬さんの立場をさらに強くしてくれるはずだと、胸のざわつきに気づかないふりしながら語る。

「俺はそんなことで立場が揺らぐような仕事をしているつもりはない」

 きっぱりと彼が言いきる。
 その静かな迫力に気圧されて、肩がビクッと跳ねた。

「次の縁談など、煩わしい」

 怒らせてしまっただろうか。
 妻になったとはいえ、発言が踏み込み過ぎていたと後悔が押し寄せてくる。

「瑞希と別れても、俺に再婚するつもりはない」

「え? そんなの、許されないんじゃあ……」

 立場を考えたら、無理な話だろう。会長は明らかに彼の結婚を望んでいた。
 それに、周囲の女性が放っておかないだろう。わかりづらいけれど、彼はその生まれ持った立場や容姿だけでなく、努力家で魅力のある人だ。それがさらに広まれば、ますますアピールする女性が出てくるに違いない。

 その中に、いずれ冬馬さんが好意を寄せて結婚してもいいと思える人が現れるかもしれない。想像しただけで胸が痛むが、わたしになにかを言う権利はない。

「結婚するつもりがないという意志が変わらないなら、このまま瑞希が俺の妻でいればいい」

「このまま……」

 冬馬さんの言う〝このまま〟とは、お互いにとって都合のいい関係でいればいいということだろう。彼にとって私の存在は、結婚の催促をかわせるし悪評の払拭に利用できる。いろいろとカモフラージュできるから、手放すのが惜しいだけだ。

「そういう契約だ」

〝契約〟という言葉が、胸に刺さる。

 たしかな時期は明言されていない。少なくとも噂が沈静化し、さらに彼の株を上げることが条件。付け加えるとしたら、スピード離婚とか言われない自然な期間が必要。

 納得した上で結婚に合意したはずなのに、今はどうしてか胸が苦しくてたまらない。

「そう、ですね」

「当日は午後から出張扱いになるから、瑞希のスケジュールを今のうちに調整しておいてくれ」

「……わかりました」

 席を立つ冬馬さんを、そっと見つめる。
 その迷いのない足取りに、あらためて私たちは契約の関係にすぎないのだと思い知らされる。

 私には、彼や会長に大きな恩がある。だから些細なことで揺らいではいられない。
 ざわめく心にきっちり蓋をして、パーティーでは冬馬さんのためになる働きをしようと決意した。


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