結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「あ、ありがとう」

「それ、コンペ用の企画か?」

 開いたままになっていたパソコンには、さっきまとめた資料が開かれたままになっている。べつに隠すことでもないから「そうです」とうなずいた。

 向かいの席に、自分のカップを持った冬馬さんが座る。

「ずいぶん集中していたな。俺が帰ってきたのも気づいていなかったようだし」

「ごめんなさい。お仕事、お疲れさまでした」

 お互いに仕事をしているから、普段から彼を見送ったり出迎えたりはしていなかった。でも室内で顔を合わせたときには、労わりの声をかけている。

 彼は休日にまで出勤していたというのに、帰宅に気づけなかったのはさすがによくない。

「謝る必要はない。ただ、根を詰めすぎるなよ」

「え、ええ」

 企画を考えることは楽しくて、無理をしているつもりはない。

 けれど以前はそうやって無理をして、風邪をこじらせてしまった。数日休む羽目になり、周囲にはずいぶん迷惑をかけた。
 今日は猛暑の中、さんざん出歩いていた。集中が途切れた途端に、なんだか疲労感に襲われる。

「用意しておいたから、それを飲んだら風呂に入ってくるといい」

 働いていた彼にそこまでさせてしまい、申し訳なくなる。慌てる私を、冬馬さんは問題ないというように小さくうなずいた。

 立ち上がった彼が、私の脇を通る際にポンッと頭に手を乗せてきた。

「瑞希の企画、楽しみにしている」

 そう言って自室に戻っていく冬馬さんの背中を見つめているうちに、頬がじわじわと熱くなっていく。

「なんか……私の方が労われていない?」

 ミルクティーを淹れてくれたり風呂を用意してくれたりと、冬馬さんが私を気遣ってくれたことに胸が温かくなる。

 これまで、彼がまったく家事をしていなかったわけじゃない。
 お互い言葉にこそしないものの、できる方がやる。それで生活にはなんの問題もなかった。在宅時間の長い私の方が動くことが多かったのは事実だけれども、ひとりで暮らしていたときにもしていたことだ。特別大きな負担でもない。加えて実家がらみのことで大きな恩もあり、自分がやって当然だと思っていた。

 我に返って、せっかく淹れてくれてくれたミルクティーを口にする。

「おいしい」

 この時間だから、紅茶にしてくれたのだろう。ミルクのほんのりとした甘みが、疲れを癒してくれる。そんなところに冬馬さんの優しさを感じて、自然と頬が緩んだ。
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