彼らの夏が終わる
 翌日の昼休み。二年一組の教室にメイサはやってきた。


「藤也、着替えて」

「なにに?」

「体操着」

「放課後って言ってなかった?」

「時間がもったいない」

「……了解、ハニー」


 他の生徒はあっけに取られて様子を見守っていたが、一部――サッカー部の男子だけは、気の毒そうな顔で着替える藤也を眺めていた。

 着替えた藤也は体育館へと連れてこられた。


「まずはストレッチね。可動域を確認させて」

「はいはい。……ん、ちょ、痛っ、いってえ!!」


 寝転がった藤也の膝を、メイサが横からゆっくり押し込んだ。


「思ったより硬いな。次は前もも」

「ちょ、待って、いてえ、いてえって!? 人間の体、そっちには曲がらねえから!」

「曲がるよ」


 メイサはこともなげに足をぱたんと床に倒してみせた。


「俺の彼女すごいな……」

「がんばろうね。次は裏もも」

「ひえ……」


 昼休みいっぱいメイサに体を伸ばされた藤也は、足元をふらつかせながら教室へ戻った。席に着くと、近くに座っていたサッカー部の男子が、苦笑まじりに振り向いた。


「だいじょぶだった?」

「だいじょばなかった……」

「やっぱり。三枝(さえぐさ)先輩、厳しいから」

「あ、そうなんだ……」

 愛する彼女の新たな一面を知れたと思えば……別に悪くはない。だが、まさかストレッチだけで筋肉痛になりそうなほど体を動かされるとは、藤也も思っていなかった。

 サッカー部の男子は、どこか同情するように「まあ、がんばれよ」と笑った。


「放課後が本番だから」

「えっ」


 藤也が青ざめて聞き返そうとした、その瞬間だった。無情にもチャイムが鳴り響き、五時間目が始まってしまう。
 
< 13 / 90 >

この作品をシェア

pagetop