彼らの夏が終わる
 入れ替わるようにやってきた一輝は、気まずそうな顔で大雅を見つめた。


「ごめん。俺、ちょっとバカだった」

「いや、俺も」

「ほんとだよ、二人とも、ほんとーに、ばか」


 いつの間にか大雅の隣に立っていた愛香が、むすっとした顔で一輝を睨んだ。


「うん」

 一輝は小さく頷く。

 愛香はそれを見てわずかに涙ぐんだが、すぐにまっすぐ一輝を見つめた。


「一輝、頑張れそう?」

「うん、頑張る」

「大雅は?」

「だいじょぶ。……駄目だったら、叱ってくれ」

「二人とも私の言うことなんて聞かないじゃん」


 愛香が唇を尖らせてそっぽを向くと、一輝は焦った顔で愛香を覗き込んだ。


「ごめん。ちゃんと聞く」

「ストレッチと筋トレ、私とメイちゃんが言うとおりにやって。私の言うこと聞かなくて、未経験の二年に負けたんだからね」

「うぐ……わ、わかったよ」


 大雅が振り向くと、二年生三人がボールを追いかけていた。

 すぐそばでは、メイサが絶え間なく指示を飛ばしている。


「青川、左入って。茶野は下がる。藤也、右に踏み込み。青川は藤也のボールを持ってる手じゃなくて、体幹を意識して。手ばっか見てるからフェイントに引っかかるんだよ。あ、茶野、今のいいよ。全身使って」


 大雅は思わず眉をひそめた。

 三枝メイサは一年のときからサッカー部のマネージャーだったはずだ。


「なあ、愛香。三枝って、バスケ観戦する?」


 愛香は首を横に振った。


「メイちゃんが観戦するのはサッカーと野球くらいって言ってたよ。でも、マネージャーをお願いしたあとに、おすすめの試合を聞かれたから、バスケの動画チャンネルを教えたけど」

「マジかよ」


 大雅は再び、コートを駆け回る二年生たちと、その三人へ同時に的確な指示を飛ばすメイサを見た。


「……怖……」


 思わずつぶやいた瞬間、藤也がじろりと大雅を睨んだ。

 大雅は慌てて首を横に振る。

 全学年の女子から圧倒的な人気を誇る藤也と、三年男子で知らぬ者はいないメイサ。ここがくっついたとき、周りは落胆と、「まあ相手があいつなら……」という納得感でそこまで騒ぎにはならなかった。

 大雅はこれまでメイサの顔くらいしか知らなかった。この三十分ほどでちょっといいなと思い始めていたが、その思いは藤也のひと睨みであっさり霧散した。


「いや、どっちも怖えーよ」


 メイサも、藤也も。

 大雅は苦笑して一輝に向き直った。


「で、部長さんは助っ人の受け入れにご理解いただけましたか?」

「ああ。あの二人に頼もう」

「じゃあ、職員室に行かないとね。草野(くさの)くんにも声をかけないといけないし」

「は?」


 一輝が不満そうに愛香を見た。


「一輝、さっき三枝に『ぽんこつモラハラ』って言われただろうが」


 大雅が声をかけると一輝は気まずそうになった。


「いや、なんで草野? 草野って、ほら、二組の……なんかぼやっとした感じの……」

「園芸部の部長なんだよ」


 愛香が答えた。


「須藤くんをバスケ部に貸し出すなら、部長とマネージャー、それに顧問の了解を得てからって言われてたんだ」

「めんどくせえやつだな」

「一輝と違ってしっかりしてる。一輝と違って」

「うるせ」


 愛香は二年生とメイサに声をかけた。

 駆け寄ってくるメイサに、一輝は向き直った。


「三枝……えっと、ありがと」

「いいよ」

「あ、いいんだ」

「いいよ。次はない」

「偉そうだな」

「黒杉に言われたくない」

「そりゃそうだ」


 あっさり仲直りする二人を、愛香はなんとも言えない顔で見つめていた。一方で、まだメイサに許してもらえていない大雅は顔をしかめた。
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