両思いだけど、片想い?

番外編 新しい命の足音

大学を卒業し、二人が同じ家で暮らし始めてから数年が経った、ある雨の夜。
外を叩く激しい雨の音は、あの二人の「鉄の理性」が崩壊した夜をどこか思い出させた。
リビングのソファで、るるは俊太の腕の中にすっぽりと収まっていた。
付き合って3年目までの「拳3個分」のディスタンスが嘘のように、今の俊太は家にいる時、片時もるるを離そうとしない。るるがキッチンに立てば後ろから抱きつき、こうしてソファに座れば、当然のように腰に腕を回して自分の膝の上に囲い込む。
「……ねえ、俊太。ちょっと重いかな」
るるが苦笑しながら俊太の胸に頭を預けると、俊太はるるの首筋に容赦なく唇を押し当て、低く掠れた声で囁いた。
「重くていい。るるを誰にも渡さないために、一生分の重さをかけてるんだから」
その瞳に宿る、深く、暗いほどの独占欲。お利口さんの仮面をどぶ川に捨てた俊太は、るるに対してどこまでも情熱的で、そして少しだけ危険な男に変わっていた。
るるは、そんな俊太の熱い胸板にそっと手を当て、トク、トクと速く打つ鼓動を感じながら、ずっと胸に温めていた言葉を口にした。
「あのね、俊太……。私、俊太との『次の未来』が欲しいな」
「次の未来?」
俊太が眉をひそめ、るるの顔を覗き込む。
「うん……。俊太にそっくりな、男の子でも、女の子でもいいの。……私たちの子どもが、欲しい」
「…………っ!」
その瞬間、俊太の身体がピキリと硬直した。
彼の脳内で、かつてない規模の衝撃が走る。
子ども。それは、るるの身体の中に、自分とるるの血を分けた、消えない愛の証を刻み込むということ。
自分の独占欲を、これ以上ない形で肯定されるということ。
「るる……お前、それ、どういう意味か分かって言ってる……?」
俊太の声が、1オクターブ低く地を這う。彼の瞳から優しさが消え、底なしの、一人の「男」の、そして「雄」としての本能が剥き出しになる。
「分かってるよ……っ。俊太と、家族になりたいの」
「……あぁ、もう無理。俺、加減しないから」
俊太はるるを軽々と横抱きにすると、リビングの明かりを消すことも忘れて、寝室へと向かった。
ベッドに押し倒されたるるを見下ろす俊太の目は、完全に獲物を捉えた肉食動物のそれだった。
「お前がそんなこと言うからだろ。……るるの身体の全部、俺だけのものにして、一生俺から逃げられないようにしてやる」
「しゅん、た……っ」
激しい雨の音が部屋を包み込む中、俊太の唇が、るるのすべてを貪るように塞いできた。
手のひら、首筋、鎖骨、そしてその奥へと滑り込んでいく俊太の手は、驚くほど熱く、そして「絶対に離さない」という執念に満ちている。
「るる、俺の血でお前をいっぱいにしたい。俺たちの境界線なんて、全部失くしちゃおう……」
「うん……、いいよ、俊太……っ」
お互いの肌が密着し、体温がドロドロに溶け合う。俊太の愛は、るるの想像を絶するほどに深く、重く、そしてどこまでも甘く、るるを支配していった。
二人の息遣いと、肌が擦れ合う音が雨の音に紛れていく。
夜が明けるまで、俊太は何度も、何度も、るるの中に「愛の烙印」を深く、深く、刻み込んでいった。

数週間後の、ある晴れた朝。
「……あはは! マジかよ、俊太お前、ついに父親になるのか!?」
大学近くの、あのいつものカフェ。
航平の声が店内に響き渡り、周囲の客が一瞬振り返る。
「ちょっと、航平、声が大きい!」
るるが真っ赤になって自分の顔を両手で隠す。その隣では、俊太がいつになく真剣な、だけどどこか誇らしげな顔で、るるの腰をしっかりと抱きしめていた。
「当然だろ。るるは俺のものだし、るるのお腹の中の子も、世界一幸せにする。……絶対に、誰にも邪魔させないからな」
爽やかな笑顔の奥に、かつてないほど巨大な「父親としての独占欲」を漲らせる俊太。
「はいはい、ごちそうさまでした。お前ら、親になっても一生その距離『マイナス』のままなんだな。……胃が痛ぇわ!」
航平は頭を抱えながらも、嬉しそうに笑って二人のグラスを小突いた。
ピンク色を塗り替えた、情熱的で、圧倒的に重い二人の愛。
その愛から生まれた小さな新しい命とともに、ふたりの、そして三人での恋の物語は、これからもどこまでも深く、続いていく。
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