両思いだけど、片想い?
すれ違いの雨
コテージでの「あと1センチ」の停電事件から数週間。
るると俊太の空気は、これまでとは全く違う意味でギクシャクしていた。
「じゃあ、るる。またね」
「うん……バイバイ」
駅前で別れる時、俊太の距離はまた「拳3個分」に戻っていた。
いや、むしろ以前より遠い「拳5個分」くらいあるかもしれない。
手を繋ぐことすら、俊太はなんだかぎこちなくなってしまっていた。
(あの時、キス、しそうになったのに……。俊太、やっぱりあれは事故で、本当は私とそういうことしたくないのかな……)
るるの胸には、また新しい、そして以前よりずっと深い不安の種が芽生えていた。
手を繋ぐことはできた。俊太が私のことを好きすぎて狂いそうになっていることも、航平から聞いて知っている。
だけど、「そこから先」に進もうとすると、俊太はいつもシャッターを下ろしてしまうのだ。
一方、俊太の脳内は完全にパニックを起こしていた。
『ヤバいヤバいヤバい! あの時、俺は本気でるるにキスしようとした! もし航平たちが戻ってこなかったら、勢いでその先までいってたかもしれない! あぶねぇ、俺の鉄の理性が一瞬で溶けかけた! るるを大事にするって決めたのに、あんな獣みたいな真実の姿を見せたら、絶対に嫌われる……っ! 距離を置け! 紳士に戻るんだ、俺!!』
拗らせすぎた純情は、お互いのすれ違いをさらに加速させていく。
見かねた航平が、大学の部室で俊太の胸ぐらを掴んだのは、それからすぐのことだった。
「おい俊太、お前いい加減にしろよ。るるがまた泣きそうな顔してんぞ」
「……しょうがないだろ! 俺だって必死なんだよ!」
俊太は頭を抱えて机に突っ伏した。
「俺はるるを世界一大事にしたいんだ。傷つけたくないし、嫌われたくない。あいつは白くて、小さくて、ピュアなんだよ! なのに、俺の頭の中は毎日薄汚い妄想でいっぱいで……これ以上近づいたら、俺、本当に理性を保てる自信がないんだ!」
「だからって、あいつを放置して不安にさせてりゃ世話ねぇわ。お前、大事にする方向性、完全に間違ってんだよ」
航平はため息をつきながら、俊太の背中をバシッと叩いた。
「るるはお前の人形じゃねぇ。お前と同じ、生きてる女の子なんだよ。あいつが今、どんな気持ちでお前を見てるか、少しは男のプライド持って考えやがれ」
親友の厳しい言葉に、俊太はハッと目を見開いた。
季節は巡り、秋。
その日は、るるの家で二人きりで大学の課題をする予定だった。
るるの両親は旅行で留守。完璧な「ふたりきりのシチュエーション」だ。
しかし、外はあいにくの土砂降りの雨。
まるで、るるの心模様を映しているようだった。
「これで、レポートのデータはまとまったな」
「うん……。俊太、手伝ってくれてありがとう」
るるの部屋。机に並んで座り、パソコンを閉じる。
用事は終わった。いつもなら、ここで俊太は「じゃあ、遅くなる前に帰るね」と爽やかに立ち上がるはずだ。
今日も、俊太は時計を見て立ち上がろうとした。
「じゃあ、雨もひどいし、俺は――」
「待って」
るるは、俊太のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
下を向いたるるの目から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ち、床に小さなシミを作る。
「るる……? なんで泣いて――」
「俊太の、バカ……っ」
「るる……?」
俊太は慌てて、るるの前にしゃがみ込んだ。
「私……俊太が私のこと、好きすぎて我慢してくれてるって、航平から聞いたよ。大事にしてくれようとしてるのも、分かってる」
るるは涙で視界を滲ませながら、俊太をまっすぐに見つめた。
「でも、手を繋ぐだけで、その先は何もないなんて……。いつも私が近づこうとしたら、俊太は逃げるじゃん。いつも仮面被って、お利口さんにして……」
「それは、お前が大切だからで……!」
「大切って何!? 触らないことが大切なの!?」
るるの声が、静かな部屋に響く。
「付き合って3年だよ? 私だって、俊太のことが好きなの。大好きなの! ……ただ見てるだけじゃ、寂しいよ……。俊太は、私のこと、本当に女の子として見てくれてる?」
「当たり前だろ! 女の子として見てなきゃ、こんなに毎日苦しむわけ――」
「じゃあ、なんで……っ」
るるの胸に溜まっていた、3年分の「じれったさ」と「寂しさ」が、一気に決壊した。
「俊太は、私と……その、……キスとか……」
るるは顔を真っ赤に染め、ボロボロと涙を流しながら、俊太の胸元に拳を押し付けた。
そして、この物語のすべての始まりであり、終わりである、あの言葉を口にした。
「キスよりもっと上のこと、したく……ないの……?」
「…………っ!」
その瞬間、部屋の中の空気が、一瞬で凍りついたように静まり返った。
俊太の脳内で、3年間、血の滲むような思いで維持してきた「鉄の理性」が、跡形もなく粉々に吹き飛んだ。
爆発、なんて生易しいものじゃない。天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
るるが、泣きながら、自分に「その先」を求めている。
紳士でいることが、逆にお前を傷つけていた。
「るる……」
俊太の口から漏れた声は、これまでに聞いたこともないほど、低く、低く、熱く地を這うような声だった。
彼の瞳から「お利口さん」の光は完全に消え去り、底なしの、一人の「男」の欲望がギラリと剥き出しになる。
ゆっくりと立ち上がった俊太は、るるの両手首を掴むと、そのままベッドの上へと押し倒した。
「……したくないわけ、ないだろ。毎日、どれだけお前をめちゃくちゃにしたいと思ってたか……教えてやるよ」
限界を迎えた彼の理性が、ついに完全崩壊する――!!
るると俊太の空気は、これまでとは全く違う意味でギクシャクしていた。
「じゃあ、るる。またね」
「うん……バイバイ」
駅前で別れる時、俊太の距離はまた「拳3個分」に戻っていた。
いや、むしろ以前より遠い「拳5個分」くらいあるかもしれない。
手を繋ぐことすら、俊太はなんだかぎこちなくなってしまっていた。
(あの時、キス、しそうになったのに……。俊太、やっぱりあれは事故で、本当は私とそういうことしたくないのかな……)
るるの胸には、また新しい、そして以前よりずっと深い不安の種が芽生えていた。
手を繋ぐことはできた。俊太が私のことを好きすぎて狂いそうになっていることも、航平から聞いて知っている。
だけど、「そこから先」に進もうとすると、俊太はいつもシャッターを下ろしてしまうのだ。
一方、俊太の脳内は完全にパニックを起こしていた。
『ヤバいヤバいヤバい! あの時、俺は本気でるるにキスしようとした! もし航平たちが戻ってこなかったら、勢いでその先までいってたかもしれない! あぶねぇ、俺の鉄の理性が一瞬で溶けかけた! るるを大事にするって決めたのに、あんな獣みたいな真実の姿を見せたら、絶対に嫌われる……っ! 距離を置け! 紳士に戻るんだ、俺!!』
拗らせすぎた純情は、お互いのすれ違いをさらに加速させていく。
見かねた航平が、大学の部室で俊太の胸ぐらを掴んだのは、それからすぐのことだった。
「おい俊太、お前いい加減にしろよ。るるがまた泣きそうな顔してんぞ」
「……しょうがないだろ! 俺だって必死なんだよ!」
俊太は頭を抱えて机に突っ伏した。
「俺はるるを世界一大事にしたいんだ。傷つけたくないし、嫌われたくない。あいつは白くて、小さくて、ピュアなんだよ! なのに、俺の頭の中は毎日薄汚い妄想でいっぱいで……これ以上近づいたら、俺、本当に理性を保てる自信がないんだ!」
「だからって、あいつを放置して不安にさせてりゃ世話ねぇわ。お前、大事にする方向性、完全に間違ってんだよ」
航平はため息をつきながら、俊太の背中をバシッと叩いた。
「るるはお前の人形じゃねぇ。お前と同じ、生きてる女の子なんだよ。あいつが今、どんな気持ちでお前を見てるか、少しは男のプライド持って考えやがれ」
親友の厳しい言葉に、俊太はハッと目を見開いた。
季節は巡り、秋。
その日は、るるの家で二人きりで大学の課題をする予定だった。
るるの両親は旅行で留守。完璧な「ふたりきりのシチュエーション」だ。
しかし、外はあいにくの土砂降りの雨。
まるで、るるの心模様を映しているようだった。
「これで、レポートのデータはまとまったな」
「うん……。俊太、手伝ってくれてありがとう」
るるの部屋。机に並んで座り、パソコンを閉じる。
用事は終わった。いつもなら、ここで俊太は「じゃあ、遅くなる前に帰るね」と爽やかに立ち上がるはずだ。
今日も、俊太は時計を見て立ち上がろうとした。
「じゃあ、雨もひどいし、俺は――」
「待って」
るるは、俊太のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
下を向いたるるの目から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ち、床に小さなシミを作る。
「るる……? なんで泣いて――」
「俊太の、バカ……っ」
「るる……?」
俊太は慌てて、るるの前にしゃがみ込んだ。
「私……俊太が私のこと、好きすぎて我慢してくれてるって、航平から聞いたよ。大事にしてくれようとしてるのも、分かってる」
るるは涙で視界を滲ませながら、俊太をまっすぐに見つめた。
「でも、手を繋ぐだけで、その先は何もないなんて……。いつも私が近づこうとしたら、俊太は逃げるじゃん。いつも仮面被って、お利口さんにして……」
「それは、お前が大切だからで……!」
「大切って何!? 触らないことが大切なの!?」
るるの声が、静かな部屋に響く。
「付き合って3年だよ? 私だって、俊太のことが好きなの。大好きなの! ……ただ見てるだけじゃ、寂しいよ……。俊太は、私のこと、本当に女の子として見てくれてる?」
「当たり前だろ! 女の子として見てなきゃ、こんなに毎日苦しむわけ――」
「じゃあ、なんで……っ」
るるの胸に溜まっていた、3年分の「じれったさ」と「寂しさ」が、一気に決壊した。
「俊太は、私と……その、……キスとか……」
るるは顔を真っ赤に染め、ボロボロと涙を流しながら、俊太の胸元に拳を押し付けた。
そして、この物語のすべての始まりであり、終わりである、あの言葉を口にした。
「キスよりもっと上のこと、したく……ないの……?」
「…………っ!」
その瞬間、部屋の中の空気が、一瞬で凍りついたように静まり返った。
俊太の脳内で、3年間、血の滲むような思いで維持してきた「鉄の理性」が、跡形もなく粉々に吹き飛んだ。
爆発、なんて生易しいものじゃない。天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
るるが、泣きながら、自分に「その先」を求めている。
紳士でいることが、逆にお前を傷つけていた。
「るる……」
俊太の口から漏れた声は、これまでに聞いたこともないほど、低く、低く、熱く地を這うような声だった。
彼の瞳から「お利口さん」の光は完全に消え去り、底なしの、一人の「男」の欲望がギラリと剥き出しになる。
ゆっくりと立ち上がった俊太は、るるの両手首を掴むと、そのままベッドの上へと押し倒した。
「……したくないわけ、ないだろ。毎日、どれだけお前をめちゃくちゃにしたいと思ってたか……教えてやるよ」
限界を迎えた彼の理性が、ついに完全崩壊する――!!