拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
視線を落とした華の肩に、何かを察した佳代子はすっと手を置く。
「……きっとお客様が不安になった原因は、『似合わない』と言われたことではなく、『笑われたこと』だと思います」
「……え」
「私もこういう仕事をしているので、その人に似合っていない物をお話させていただくことはあります。『あなたに合っていない』と正直に言うことも必要な時があるので。ただ、言葉は選びますし、何よりそこに笑いはいりません。懸命に努力してる人を笑ったり馬鹿にするような人の助言は聞かなくていいんです」
「……」
「一生懸命な時に笑って『似合わない』なんて言われたら、誰だって傷つきますよね。でも、そんな雑音聞く必要ありません。私は正直に言いますが、この色はとてもお似合いです。あとは、お客様が何を使いたいか、という点だと思います。似合ってなくても、使うことで自分の気持ちが上がればそれは大正解ですからね。そういう選び方もアリです」
佳代子の優しい言葉は、すとんと華の心に落ちた。
私が何を使いたいか……。
鏡の中の表情が少し変わる。色づいた唇が、徐々に柔らかく微笑みだす。
「やっぱり、彼に選んでもらったこの色がいいです」
「はい!」
「あの、あと……他の化粧品も、似合う物を選んでくれませんか……?」
「! もちろんです!」
佳代子は弾んだ声で返事をした。
朔弥が買い物を終えて戻って来た時、丁度華が椅子から立ち上がるところだった。朔弥は背後から軽く声を掛ける。
「佐々山さん? 終わった?」
しかし、振り返った華を見て、せっかく姉のために買った化粧品を危うく落としてしまいそうになる。
普段は化粧っ気のない華の顔が彩られてとても綺麗だった。アイラインを引いて睫毛が上がり、ぱっちりした目元。血色のよい唇。だが決してやりすぎ感はなく、あくまで自然なメイクが非常に華らしかった。
普段とは髪型が違い、眼鏡をしていないのもあって、まるで別人かと思うほどだ。後ろでは佳代子がいい仕事をした、とばかりに鼻の穴を広げていた。
「……あ、いろいろ、メイクしたんだね……?」
朔弥は呆然としながら言う。華は小さく頷いた。佳代子は得意げに説明を始める。
「素材を生かしたメイクにしてみました。お肌がとても綺麗でいらっしゃるので、ベースメイクは本当に必要最低限。目元と口元に色を付けるだけでだいぶ印象が違いますよね。一緒に色を選びながら使用したんです」
「はい。やり方も教えて頂いて……ど、どうでしょうか」
恐る恐る朔弥に尋ねると、彼は瞬きも忘れて華を見つめていた。長く沈黙が流れた後、はっきりと言う。
「凄く可愛い」
ハッとした華の顔が、みるみる赤くなる。熟れたトマトほどになり、耳まで染まっていく。佳代子はチークいらなかったな、なんてどうでもいいことを考えながら微笑ましく見守っている。
「ど、どうもありがとう……」
「う、うん。別に、正直に言っただけだから……決して漫画の真似をしたわけではなく、本音だし……」
「わ、わかりました」
「か、可愛いっていうより綺麗? あ、どっちもだけど、いや普段の佐々山さんも全然いいんだけど、イメージが違うから……元々綺麗だなっていうのは分かってたんだけどこう」
「だ、大丈夫です、ありがとうございます!」
恥ずかしく思いながらも、華は自分の心が喜びで満ちていることに気が付いていた。朔弥が必死に言葉を選びながら華を褒めてくれたのが、何より嬉しかったのだ。
そしてぐっと決意すると、勢いよく佳代子に振り返った。
「全部購入します!」
「……きっとお客様が不安になった原因は、『似合わない』と言われたことではなく、『笑われたこと』だと思います」
「……え」
「私もこういう仕事をしているので、その人に似合っていない物をお話させていただくことはあります。『あなたに合っていない』と正直に言うことも必要な時があるので。ただ、言葉は選びますし、何よりそこに笑いはいりません。懸命に努力してる人を笑ったり馬鹿にするような人の助言は聞かなくていいんです」
「……」
「一生懸命な時に笑って『似合わない』なんて言われたら、誰だって傷つきますよね。でも、そんな雑音聞く必要ありません。私は正直に言いますが、この色はとてもお似合いです。あとは、お客様が何を使いたいか、という点だと思います。似合ってなくても、使うことで自分の気持ちが上がればそれは大正解ですからね。そういう選び方もアリです」
佳代子の優しい言葉は、すとんと華の心に落ちた。
私が何を使いたいか……。
鏡の中の表情が少し変わる。色づいた唇が、徐々に柔らかく微笑みだす。
「やっぱり、彼に選んでもらったこの色がいいです」
「はい!」
「あの、あと……他の化粧品も、似合う物を選んでくれませんか……?」
「! もちろんです!」
佳代子は弾んだ声で返事をした。
朔弥が買い物を終えて戻って来た時、丁度華が椅子から立ち上がるところだった。朔弥は背後から軽く声を掛ける。
「佐々山さん? 終わった?」
しかし、振り返った華を見て、せっかく姉のために買った化粧品を危うく落としてしまいそうになる。
普段は化粧っ気のない華の顔が彩られてとても綺麗だった。アイラインを引いて睫毛が上がり、ぱっちりした目元。血色のよい唇。だが決してやりすぎ感はなく、あくまで自然なメイクが非常に華らしかった。
普段とは髪型が違い、眼鏡をしていないのもあって、まるで別人かと思うほどだ。後ろでは佳代子がいい仕事をした、とばかりに鼻の穴を広げていた。
「……あ、いろいろ、メイクしたんだね……?」
朔弥は呆然としながら言う。華は小さく頷いた。佳代子は得意げに説明を始める。
「素材を生かしたメイクにしてみました。お肌がとても綺麗でいらっしゃるので、ベースメイクは本当に必要最低限。目元と口元に色を付けるだけでだいぶ印象が違いますよね。一緒に色を選びながら使用したんです」
「はい。やり方も教えて頂いて……ど、どうでしょうか」
恐る恐る朔弥に尋ねると、彼は瞬きも忘れて華を見つめていた。長く沈黙が流れた後、はっきりと言う。
「凄く可愛い」
ハッとした華の顔が、みるみる赤くなる。熟れたトマトほどになり、耳まで染まっていく。佳代子はチークいらなかったな、なんてどうでもいいことを考えながら微笑ましく見守っている。
「ど、どうもありがとう……」
「う、うん。別に、正直に言っただけだから……決して漫画の真似をしたわけではなく、本音だし……」
「わ、わかりました」
「か、可愛いっていうより綺麗? あ、どっちもだけど、いや普段の佐々山さんも全然いいんだけど、イメージが違うから……元々綺麗だなっていうのは分かってたんだけどこう」
「だ、大丈夫です、ありがとうございます!」
恥ずかしく思いながらも、華は自分の心が喜びで満ちていることに気が付いていた。朔弥が必死に言葉を選びながら華を褒めてくれたのが、何より嬉しかったのだ。
そしてぐっと決意すると、勢いよく佳代子に振り返った。
「全部購入します!」