拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
 焦っていると、華が口を開く。

「あの会話はタクシー内で交わした物ですよね。大島さんは『その後どうですか、付き合ってるんですか?』と話を切り出しました。
 勘違いした私も悪いんですが……私はてっきり、深見さんのことだと思ってしまって」

 恥ずかしそうに華は俯く。だがすぐに顔を持ち上げた。

「途中で大島さんが、秋山さんのことを言ってると気づいた時、私きっぱり否定しましたよね。その部分だけ綺麗に切り取られてる。悪意のある録音です」

 ぐっと唇を噛む美鈴。

 絶対認めるわけにはいかない。諦めたら終わりなんだから。

「私は……!」

「あと、君の話には決定的な矛盾が生じてる」

 朔弥が鋭い目で言ったので、美鈴の体が強張った。

「……矛盾?」

「とりあえずは秋山さんの発言などは置いておこう。大島さんの言っていることが正しかったとするよ。こうだったよね、佐々山さんと秋山さんは付き合っていて、二人は喧嘩をしたから仲直りのために、秋山さんの家に佐々山さんを連れて行った……」

「……は、はいそうです」

「自分で録った録音、ちゃんと聞いたの?
 佐々山さんは『いえ! 付き合ってないです! ただ……近くそうなるかも、とは思います』って答えてるんだよ」

 あっとみんなが息を呑んだ。確かに、華はそう発言していた。

「この時点では付き合ってないじゃん。これ、昨日録音したやつでしょ? データを見れば日付が分かるから見せてよ。付き合ってないってことの証明になるから、大島さんが言う『カップルの喧嘩を仲裁してあげただけ』って言い分は通らないよ? どうする?」

「……で、でも付き合うだろうって言ってるんだから同じじゃないですか……そ、そう。私は二人の復縁を取り持ってあげようと思って、協力したんです! 二人は会った直後気持ちが通じ合ってハグして、映える場面だから私は写真を撮ってあげただけで……」

「……この状況で、本当にそんな言い分が通ると思ってる? 佐々山さんを二股扱いしてただろうが」

 朔弥が指摘してきた件について、みんなが納得しているのがひしひしと美鈴にも伝わって来た。美鈴を見る目が、どんどん冷たい物になってきている。

 なんで。

 なんで私が、こんな風に見られてるの!?

 いつもみんな私に憧れの視線を送って来てたくせに!!

 華が小さくため息をついて、朔弥に言う。

「深見さん。言ってもいいですよ。秋山さんは昨日、部屋全体をずっと録画してたって」

 みんなが息を呑んだ。それは美鈴も同様に。

(多分、深見さんはあえて言わないようにしてくれてるんだよね……録画されてた、なんて聞いたらみんながいろいろ想像したり詮索したりするかもしれないから……)

「私は深見さんが助けてくれたら、無事だったので……」

 秋山が部屋を録画していたという事実は、彼の異常性を示していて、みんながドン引きする。一体何を録画しようとしたのか……と、嫌な想像が働いてしまう。

 朔弥が咳ばらいをして言う。

「佐々山さんがそう言うなら……そう、秋山さんがずっと録画していてくれたので、佐々山さんが拒絶してる場面がしっかり映ってる。復縁はしない、ってね。だから大島さんの証言は、最初から無理があったんだよ。二人は付き合ってない。つまり秋山さんの一方的な想いで、それを協力したのが大島さん……ってこと。それを隠すために、証拠を捏造したんでしょ」

 呆然とする美鈴に、朔弥がずいっと顔を寄せた。

「あと一歩で大変なことになってたよ。体調不良のフリをして佐々山さんを危ない男の元へ連れて行くなんて……どういう神経してんだよ」

 ここで、ようやく周りの人間も流れを理解した。

 『え、大島さんそんなことしたの?』『復縁を迫る元カレの所に騙して連れてったって怖すぎじゃない?』『なんでそんなこと……』みんな口々に思った事を言う。

 朔弥はふうと息を吐いた。

(あんな写真と録音で、騙されると思ったのか……)

 まあ、一瞬だけなら他の人間を騙せるかもしれないが無理がある。事実はそう簡単に捻じ曲げられないものだ。

 美鈴は青ざめて震えている。もういい言い訳が思いつかなかった。何を言っても、ここから挽回するのは不可能だと自身も分かっている。

「なんで……私はただ、似合ってる人同士でくっつけばいいって思っただけで……」

 ぶつぶつと小声で呟く美鈴に、朔弥は呆れる。

「なんかやたら佐々山さんに攻撃的だけど、何でなの? 佐々山さんが婚約破棄されたって言う噂もどうせ君が流したんでしょう。佐々山さんは誰にも言ってなかったらしいしね」

「……なんで……深見さんその女の味方してるんですか……あなたは! 元々は私を好きだったでしょう!!? 弄んだんですか!!?」

 美鈴がカッと目を見開いて叫んだ。その形相は普段ニコニコしている美鈴とはまるで別人で、みな呆気に取られる。

 朔弥は予想外の発言に首を傾げた。

「好きなんて言ったこと一度もないけど……俺はずっと佐々山さんが好きだし」

 不思議そうに彼は言った。美鈴ははあ? とさらに顔を歪める。

「私に連絡先聞いてきたし……! 部長のセクハラからも庇ってくれたじゃん!! 最初は痛々しい態度だったけど、私のために変わったんでしょ!!」

「連絡先は聞いたけど、結構前だしあの頃は異動したてで、大島さんがムードメーカーに見えたから……部長のやつは、正直に言うと佐々山さんが泣きそうになってたから無意識に動いちゃったって感じで」

「へ」

「変わったのは佐々山さんのおかげだから。佐々山さんがいろいろ助言をくれて、その過程で俺は佐々山さんを好きになった」

 朔弥が優しい目で華を見た。華は恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 周りで、誰かがプッと小さく吹き出した。

「え。連絡先聞かれただけでその人がずっと自分を好きだと思ってたの……?」

「深見さんは大島さんを狙ってるって噂が一時期流れてたけど、自分で流してたの? それも連絡先聞かれただけで?」

「ちょっと、恥ずかしい……」

 美鈴はかあっと顔を赤くし、信じられないとばかりに首を横に振った。

「なんで……そんな地味な可愛げない女を……」

「え? 目大丈夫? 佐々山さんめっちゃ可愛いじゃん。しかも、君みたいに噓つかないんだよね。いつでも正直。俺が贈ったリップを失くしたって正直に言ってくれた時、やっぱりいいなって思って」

 美鈴がハッとする。

 まさか……あのリップ?

 あれ、友達から贈られたわけじゃないの? 深見さんから?

 自分の行動が、まさか二人を近づけてた?

 華が恥ずかしそうに朔弥に小声で言う。

「深見さん。言いすぎです……!」

「え、正直に言っただけなんだけど……」

 目の前で何やら嬉しそうに笑う二人は、美鈴の苛立ちをピークにさせた。カッとなった美鈴は恐ろしい形相で叫ぶ。

「深見さんが本当に大事だったらプレゼント失くしたりしないでしょ!? 私なら失くさないし……物失くされてなんでそんな前向きになれるとか」

「だって、誰だって失敗はするし、俺は正直に言ってくれたことが嬉しかった。この周辺探したり、受付に泣きそうな顔で問い合わせたりしてくれてたの知ってるから」

「あんな汚いポーチ、落ちてたとしても誰も受付に届けないでしょ!」

 美鈴がそう言い返した瞬間、すっと朔弥の目が細くなった。

 彼は冷たく美鈴を見下ろして言う。

「俺……リップとしか言ってないんだけど、何でポーチごとなくなったことを知ってるの?」
< 52 / 56 >

この作品をシェア

pagetop