悪魔は夜に笑う
「なんですか?既婚者マウントなら私の右ストレートが火を吹きますけど」

「だってとっくの昔に結婚したと思ってたから」

「え……」


驚いた理由はそれか。
新卒の時から結婚願望があるって話してたっけ。
それなのに30代に片足突っ込んでる状態で結婚してないってそれは確かに驚くかも。


「深沢って綺麗なのに飾ってないから、そういう自然体の女性って人気だろうなって」


そういう風に思われてたんだ。嬉しいけどちょっと複雑。
引く手数多どころか悪手を踏みすぎて人間不信気味になっちゃったんだから。


「やっぱり日本の男性って、守りたいような愛らしくて儚げな女性が好みらしいです」


私がため息混じりに笑うと、今度は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして、タバコを咥えながら硬直した。


「もしかして……傷心でいらっしゃる?」

「その通りでございます!落ち着いたら昔のよしみで奢ってください!奥さん一緒でもいいから。むしろ美女に癒されたい!」


心理状況を当てられ、ついに冷静では居られなくなった。
顔をしわくちゃにして頭を下げると、視界の隅で灰皿にタバコの灰を落とす様子が見えた。


「なんで俺の嫁さん情報知ってるんだよ」

「社内で大騒ぎですよ。牛見さんがシンガポール人の美女と結婚したって。私が一番にお近づきになってみんなに自慢するんです!」

「関西魂ここに極まれりって感じだな」

「ゴシップには敏感ですからね」


3年離れていても、牛見さんは私の騒がしい性格を覚えている。
だから会話が弾んで楽しい。

それから2時間喋り倒し、最終的に奥さんと会う約束を取り付けてから解散した。
人生最大の傷心で苦しんでいたけど、いい気分転換になった。
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