悪魔は夜に笑う
9月、私は友達を連れてバーの扉を開いた。
以前この店で一緒に飲んだことのある2人だ。
友達には私が傷心であることは伝えていない。
あくまでお祝いに一緒に参加してほしいとだけ伝えた。

外は雨上がりで蒸し暑かった。空気が重苦しくて私の心みたい。
憂鬱だったけど店内は快適で不安が薄れていった。

蒼士郎くんと顔を合わせなくていいように、今日はテーブル席を予約した。
予想通りカウンター席は満席。立ち上がらなければ蒼士郎くんと目が合うことはない。
彼の顔色が気になるところだけど、怖くてカウンターの向こう側に視線を向けることができない。


「いらっしゃいませ、愛結那さん。お待ちしておりました」


小さくため息をつくと、マスターの声が上から聞こえた。
私はたちまち笑顔を作り、抱えていたプレゼントを渡した。


「マスター、22周年おめでとうございます」


いつもはフラワーアレンジだけど暑くてすぐに枯れてしまうから悲しいってマスターが嘆いていたから、今年は長く飾れるようにバルーンブーケにしてみた。


「22だからにゃんにゃんで猫ちゃんにしました!」


こんなこと大きな声で言ったら“あゆなさん何変なこと言ってんすか”って蒼士郎くんがカウンターから身を乗り出してくるはずだけど、ちらっと様子見すると今日はノーリアクション。
満席で忙しいから余裕がないみたい。それとも私にはもう興味がないのか。
私から終わらせた恋だから、こんなこと考えたって意味ないのに。


「いつもありがとうございます。ごゆっくりくつろいでくださいね」

「ありがとうございます」

「それと、愛結那さんには個人的にお渡したいものがあるから最後まで残ってくれますか?」

「もちろん!最近来れてなかったから友達と一緒にラストオーダーまでたくさん飲んで売上に貢献しますね!」


ここにいると嫌でも蒼士郎くんのことばかり考えてしまう。
6年通ったけど潮時かな。
悔いがないように楽しい時間を過ごさなきゃ。
私は笑ってマスターにおすすめのカクテルをお願いした。
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