悪魔は夜に笑う
会いたくなかったから顔を背けようとした。
だけどその表情にはまるで色がなくて人形のよう。
凛々しいはずの立ち姿はいつもより覇気がないように見えて一回り小さく感じた。

失恋したはずの私より元気がないってどういうこと?


「裏で話せる?」


抑揚のない単調な声。話したくないのにその悲しげな瞳には誘引力があって、気が付けば首を縦に振っていた。

友達には先に帰ってと伝えた。
私は蒼士郎くんと対峙するために店の外を回って裏口へ。
裏口には蒼士郎くんが壁に寄りかかって立っていて、私が近づくと姿勢を正した。

雨上がりの水たまりに繁華街のネオンが反射している。
あえて下を向いて意識を背けていると、視界の隅で蒼士郎くんがタバコを取り出し口に咥えた。
ライターの小さな炎が蒼士郎くんの頬を明るく照らす。
その仕草を目で追っていると、いつの間にか視線が合わさっていた。


「痩せたね。ていうかやつれてる」

「お互い様じゃない?蒼士郎くんも元気ないし」


話しかけられ、存外いつも通りの返答ができて自分でも驚いた。
妙に落ち着いていられるのは現実味がないからだろうか。
それとも、蒼士郎くんにはもう期待してないから?


「見たんでしょ、あの日。俺が言い寄られてるの」


不意に口火を切ったのは蒼士郎くんからだった。
単刀直入に来るとは思ってなくて目を泳がせる。

言い寄られてるっていうか、思いっきりハグされてたじゃん。
それで全然嫌がってなかったじゃん。


「あの人、誰なの」

「元カノ。ヨリ戻したいって押しかけてきた」


思い切って聞き出せば、妹でしたとかそんなオチはなくて。
淡い期待は崩れて底のない暗闇に落ちた。

それでも、こういう時ほど気丈に振る舞わなければ。
分かってた未来じゃないか。私は息を吸い込んだ。
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