悪魔は夜に笑う
「そっか……」


よかったね。
笑ってそう伝えて静かに去ろう。

その思惑は、突然伸ばされた蒼士郎くんの手によって口を塞がれ、物理的に叶わなくなった。
火をつけたばかりのタバコが水たまりに落ちてじゅわりと煙を立てた。


「なんて言おうとした?」


私の口を塞ぐ手が震えていることに気づいたのは、蒼士郎くんの悲痛な表情を目視してから。
眉間にしわを寄せて怒っているようで、半開きの口元はわなわなと小刻みに震えて傷ついているようだった。

まるで、まだ私を想っているみたいじゃないか。
やめてよ。もう心を乱されたくないのに。

冷静を努めても、涙がほろりと頬を伝ったのならもう意味が無い。
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙は蒼士郎くんの手を伝って地面に落ちた。
水たまりに小さな波紋が広がって、いつしかその様子を観察できないほど、涙で視界がぼやけて何も見えなくなった。


「あの場面見て、泣くほど傷ついてんのになんで我慢しようとした?なんで何も言わず立ち去った?」


嗚咽に呼吸を阻まれ始めた頃、蒼士郎くんはようやく手のひらを離した。
うつむこうとする私の顔を持ち上げて無理やり目線を合わせる。

瞬きして涙が流れ落ちると、蒼士郎くんは私より苦しそうな顔してした。
ひょっとすると、勘違いじゃなくて本当にまだ私のこと好きなの?

あーあ、食い下がりたくなかったのに。
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