悪魔は夜に笑う
この男は相も変わらず私に強い恋慕を抱いているようだ。
優しさを含んだたおやかな声色と飾らないその笑顔。
その表情、その声が一番好きだったことを痛烈に思い出した。
アラサーの涙腺は脆いのに、刺激されてしまい急激に熱を帯びるような感覚に陥る。
やばい、今度は安心して咽び泣きそう。


「言わんでも分かるやろ……」


嗚咽の合間に必死に捻り出した言葉が可愛げが無さすぎて自分でも引いた。
なんで強がる。素直になれよ29歳。
蒼士郎くんに嫌われたくないのに。
だからってこんなブサイクな泣き顔晒したくない。


「だって珍しくあゆなさんの話で結論まで行き着かないから、オチまで誘導してあげようと思って」

「あるわけないやろこんな痴情のもつれに!」


再び水たまりに視線を落としたものの、蒼士郎くんの発言に驚いて反射的に顔を上げる。
しかし蒼士郎くんは突然すねたように口をへの字に曲げた。


「俺が求めてるのは面白さじゃなくて、俺が好きかどうかの結論。こんな時まで面白おかしくしようとしなくていいって」


関西人らしい回答を求めてるわけじゃなかったのか。
骨の髄まで関西のノリが染み付いているようだ。
恥ずかしくてうつむくと、蒼士郎くんの指先が私の手を取り優しく握った。


「釈明させてって言ったら聞いてくれる?」


追及されるのめんどくさいって思うくせに、私には自分からあの日の詳細を話してくれるらしい。
私は心して大きく頷いた。
< 132 / 181 >

この作品をシェア

pagetop